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子育て世帯は東京を離れ始めたのか――人口移動に表れる「乳幼児期の郊外化」

都心の集合住宅と郊外の住宅を前に居住地を考える子育て家族。

子育て世帯は東京を離れ始めたのか――人口移動に表れる「乳幼児期の郊外化」

子育て世帯の東京離れは、東京全体から人が消える形では進んでいない。最新の人口移動統計でも東京圏は大幅な転入超過だが、0~4歳は転出超過が続いている。進学や就職で若者が集まり、結婚・出産後に一部の世帯が広さと住居費の折り合う地域へ移る、ライフステージ別の分化が起きている。

移住を決めるのは住宅価格だけではない。通勤頻度、保育・教育サービス、親族の支援、転職リスクを含む「暮らしの総費用」が、東京に残るか郊外・地方へ移るかを左右する。

この記事で分かること

  • 東京圏全体は転入超過でも、0~4歳は転出超過が続いている
  • 東京の住宅は、子どもの誕生後に必要となる広さを確保しにくい
  • テレワークは移住の選択肢を広げたが、完全な場所の自由は生んでいない
  • 東京都の手厚い子育て支援は、転出を抑える一方で自治体間格差も生む
目次

東京圏の人口は増えているが、乳幼児の動きは逆向き

結論からいえば、「東京離れ」という言葉だけでは実態を捉えられない。

総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告2025年結果によると、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県からなる東京圏は、2025年に12万3,534人の転入超過だった。前年より1万2,309人縮小したものの、依然として全国から人を引き寄せている。

東京都単独でも6万5,219人の転入超過である。少なくとも総人口の移動だけを見て「東京から人が逃げている」とは言えない。

一方、日本人移動者を年齢別に見ると、東京圏の0~4歳は2010年以降、16年連続の転出超過となった。乳幼児は単独で引っ越さないため、これは主に親と子が一緒に東京圏外へ移った動きを示す。

ここから読み取れるのは、次の二つが同時に起きているということだ。

  • 進学、就職、転職の機会を求める若者は東京圏へ入る
  • 子どもが生まれ、住宅の広さが必要になった世帯の一部は東京圏外へ出る

ただし、統計上の「東京圏外への転出」だけが子育て世帯の住み替えではない。東京23区から多摩地域、埼玉県、千葉県、神奈川県へ移っても、東京圏全体の転出にはならない。したがって、都心から郊外へ向かう動きは、0~4歳の転出超過より広いと考える必要がある。

ここがポイント: 東京が一律に選ばれなくなったのではない。仕事の多い都心と、広い住宅を確保しやすい郊外を、家族が成長段階に応じて使い分けている。

最大の分岐点は、家賃ではなく「必要な広さを買えるか」

子どもが生まれると、東京の住宅費問題は月々の家賃差だけでは済まなくなる。

一人暮らしや夫婦二人なら、駅近の小さな住宅で利便性を優先できる。しかし、子どもの就寝場所、在宅勤務スペース、収納、ベビーカー置き場などが必要になると、同じ地域で住み替える費用が急に重くなる。

借家の子育て世帯の約7割が70平方メートル未満

東京都が令和5年住宅・土地統計調査を基に整理した「東京都の少子化対策2025」では、都内の借家に住む子育て世帯の約7割が70平方メートル未満の住宅に居住している。

また、東京都の住宅全体では、世帯人数に応じたゆとりある広さの目安である「誘導居住面積水準」を満たす割合が41.4%にとどまる。借家に限れば25.6%で、全国の借家の34.3%を下回った。東京都の令和5年住宅・土地統計調査の概要が示すこの差は、子育て期に広さを求める世帯ほど都内で選択肢が狭くなることを意味する。

問題は、単に「東京の住宅は高い」ということではない。家族向け住宅を同じ通勤圏で探すと、世帯は次の選択を迫られる。

  • 住居費を増やして現在の地域に残る
  • 駅から離れる、築年数を妥協する、面積を抑える
  • 都心への通勤時間を延ばして郊外へ移る
  • 転職や勤務形態の変更を伴って、東京圏外へ移る

収入が増えても、住宅価格や家賃の上昇がそれを上回れば、必要な面積には届かない。逆に、郊外で住宅費が下がっても、自動車の購入、通勤定期、保育送迎などが増えれば、家計全体の負担は想定ほど軽くならない。

持ち家取得は「移動できる時期」を狭める

子どもの就学前は、住み替えを決めやすい時期でもある。小学校入学後は、転校、学童、友人関係、受験準備が移動の費用に加わるためだ。

その結果、住宅購入を考える世帯は、出産から小学校入学までの数年間に判断を集中させやすい。0~4歳の転出超過が続く背景には、住宅の広さだけでなく、こうした時間制約もある。

教育費は東京に残る理由にも、離れる理由にもなる

教育環境は、東京の強みと負担を同時に生む。

東京には学校、塾、習い事、文化施設が集まり、子どもの選択肢を増やしやすい。保護者の通勤先も多く、共働きを続けながら教育機会へアクセスできる利点は大きい。

その一方、選択肢が多い地域では、私立進学や塾通いが家計の事実上の前提になりやすい。文部科学省の令和5年度子供の学習費調査は、公立と私立で学校教育費や学校外活動費に大きな差があることを示している。住宅費が高い地域で教育費まで増えれば、二つの固定的な負担が家計を圧迫する。

ただし、「地方へ移れば教育費が必ず下がる」とは限らない。

  • 希望する学校や塾が遠ければ、交通費や送迎時間が増える
  • 私立校への進学を続ければ、住宅費が下がっても学費は残る
  • 地域によっては通学先や習い事の選択肢が限られる
  • 公立学校の規模、学童、特別支援、医療へのアクセスには地域差がある

移住先を比較するときは、自治体の給付額だけでなく、学校までの距離、放課後の居場所、通塾・送迎の負担まで確認しなければならない。

テレワークは移住を可能にしたが、出社日数が距離を決める

働く場所の自由は広がったが、東京からどこへでも移れるほどではない。

国土交通省の令和6年度テレワーク人口実態調査では、雇用型就業者に占めるテレワーカーの割合は全国で24.6%だった。首都圏は約4割を維持しているものの、前年度から0.6ポイント低下している。

この数字が示すのは、テレワークが定着した業種はある一方、全員が常時利用できる制度ではないという現実だ。勤務先が制度を設けていても、部署、職種、管理職の方針によって利用頻度は変わる。

週1日出社と週3日出社では、選べる地域が違う

移住可能な距離は「テレワークをしているか」ではなく、実際の出社頻度で決まる。

  • 月数回の出社なら、東京圏外や二地域居住も検討しやすい
  • 週1~2日なら、新幹線駅周辺や東京圏外縁部が候補になる
  • 週3日以上なら、交通費と移動時間から首都圏郊外が現実的になりやすい
  • 夫婦の勤務先が別方向なら、双方の通勤条件を満たす地域は限られる

さらに、転職時に同じテレワーク条件を維持できる保証はない。住宅ローンや長期賃貸契約を結ぶ世帯にとって、現在の勤務制度だけを前提に遠距離移住を決めるのはリスクがある。

企業側が出社方針を変更した場合にどうするか。これを家族で決めておかなければ、住宅費を下げた代わりに長時間通勤を背負うことになる。

東京都の支援は、住宅費の高さをどこまで相殺できるか

東京都は子育て支援を拡充しており、単純な「郊外の方が安い」という比較は成り立ちにくくなっている。

都内在住の0~18歳を対象とする018サポートは、所得制限なしで子ども一人当たり月額5,000円、年額6万円を支給する。子どもが二人なら年12万円となり、日常的な教育費や生活費を補う効果がある。

また、東京都は2025年9月から、年齢や所得にかかわらず、認可保育所などを利用する世帯の第一子の保育料等無償化を支援している。従来の国制度では負担が残りやすかった0~2歳の第一子を含む点が重要だ。

これらは、共働き世帯が都内に残る判断を後押しする。一方で、家族向け住宅の家賃や購入費との差を全面的に埋める規模ではない。

自治体間競争の効果と限界

東京都の財政力を背景とした支援は、都民の負担軽減には直接役立つ。しかし、隣接県との制度差が広がると、居住地によって受けられる給付や無償化の範囲が変わる。

この仕組みには二つの見方がある。

肯定的な見方は、自治体が地域の事情に応じてサービスを競い、子育て世帯の需要に素早く応えられるというものだ。東京都が先行すれば、国の制度拡充を促す可能性もある。

批判的な見方は、同じ通勤圏・生活圏に住んでいても、自治体の税収によって支援に差がつくというものだ。子育て支援を手厚くする自治体へ世帯が移れば、税収と人口がさらに集中する循環も起こり得る。

国が最低水準を整え、自治体が上乗せするのか。それとも地域差を広く認めるのか。これは少子化対策と地方自治の役割分担に関わる論点である。

政策は「移住の促進」より、選択肢を狭めない設計が必要

子育て世帯を地方へ動かすこと自体を政策目標にすると、仕事と教育の実態を見失いやすい。

東京への集中には、住宅費や通勤混雑という不利益がある。一方、雇用、医療、教育、専門サービスが集積する利益もある。子育て世帯が残ることも、郊外や地方へ移ることも、それぞれ合理的な選択になり得る。

政策が目指すべきは、家計が住宅費に押し出される形で移転を強いられたり、移住後に働き続けられなくなったりする事態を減らすことだ。

住宅政策で必要なこと

現金給付だけでは、供給の限られた地域で家賃や住宅価格の上昇に吸収される恐れがある。必要なのは、家族向け住宅そのものを増やし、既存住宅を使いやすくする政策である。

  • 駅周辺での住宅供給と保育・学校整備を一体で進める
  • 空き家を子育て世帯向け賃貸へ改修し、流通を促す
  • 既存住宅の断熱、耐震、間取り変更を支援する
  • 職住近接を可能にする都市計画と交通網を維持する

ただし、住宅を増やせば保育所、学校、道路、防災設備への追加投資も必要になる。建設戸数だけで評価せず、地域インフラの受け入れ能力まで見るべきだ。

雇用政策で必要なこと

遠距離移住を支えるには、個人の努力では変えられない勤務条件への対応が欠かせない。

  • 求人時に出社頻度と勤務地変更の条件を明示する
  • 育児期のテレワークや柔軟な勤務時間を制度化する
  • サテライトオフィスを整備し、長距離通勤を減らす
  • 地方でも専門職がキャリアを継続できる雇用を増やす

テレワーク補助だけでなく、企業が制度を継続できる業務設計や人事評価まで整えなければ、移住の前提は安定しない。

教育・子育て政策で必要なこと

支援策は給付額だけでなく、利用できるサービスの量と質で評価する必要がある。

保育料が無償でも入所できなければ、保護者は就業時間を減らさざるを得ない。学童が早く閉まれば、フルタイム勤務との両立は難しい。地方では学校統廃合によって通学距離が延びる場合もある。

自治体は移住案内で、次の情報を比較可能な形で公開すべきだ。

  • 保育所の空き状況と実際の入所実績
  • 学童の開所時間、待機状況、長期休暇中の対応
  • 小児医療、産科、発達支援へのアクセス
  • 学校の規模、通学方法、統廃合の見通し
  • 給付・無償化制度の対象期間と所得要件

「東京離れ」をめぐる三つの反論

単純な結論を避けるため、反対方向の材料も確認しておきたい。

「転入超過なのだから、問題はない」

東京圏全体の人口吸引力が強いことは事実だ。しかし、若者の流入と乳幼児を伴う世帯の流出は両立する。総数だけでは、東京が家族形成後も住み続けやすい地域かどうかを判断できない。

「住宅費が高くても、東京は所得も高い」

高い賃金と多い雇用機会は東京の大きな強みである。ただし、可処分所得から住居費、保育・教育費、通勤費を差し引いた後の余裕は世帯ごとに異なる。額面年収だけの地域比較では不十分だ。

「移住すれば子育てが楽になる」

住宅が広くなり、自然環境や親族支援を得られる世帯はある。一方で、夫婦の一方が退職したり、自動車が複数台必要になったりすれば、所得減と支出増が同時に起こる。移住は万能な少子化対策ではない。

今後見るべき数字は「人数」だけではない

子育て世帯の東京離れが進むかを判断するには、毎年の転入超過数に加えて生活条件の変化を追う必要がある。

今後の注目点は次の通りだ。

  • 東京圏の0~4歳、5~9歳の転出超過が拡大するか
  • 東京都から近隣3県への移動と、東京圏外への移動がどう変わるか
  • 家族向け賃貸住宅の家賃、床面積、供給戸数がどう動くか
  • テレワーク率だけでなく、週当たりの出社日数が増減するか
  • 東京都の保育料無償化や018サポートが居住継続にどう影響するか
  • 転入先で保育、学校、医療、交通の受け入れ能力が保たれるか

人口移動統計は、転居した人数を示すが、転居理由までは直接示さない。住宅、雇用、教育の統計を組み合わせ、世帯属性別の動きを継続して確認する必要がある。

まとめ

事実として、東京圏は2025年も12万人を超える転入超過だった。同時に、日本人の0~4歳は16年連続で転出超過となっている。したがって、起きているのは東京全体の衰退ではなく、若年期には集まり、子育て期には一部が外へ向かう人口循環である。

住宅費は大きな要因だが、それだけでは移動を説明できない。教育の選択肢、保育サービス、親族の支援、夫婦それぞれの出社頻度が重なって、最終的な居住地が決まる。

今後問われるのは、東京都が給付をどこまで増やすかだけではない。家族向け住宅の供給、柔軟な働き方、移住先の学校・医療・交通を同時に整えられるかである。次の人口移動統計では、総数より先に0~9歳の動きと、東京都からどの地域へ移ったのかを確認したい。

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