教師3,827人不足の正体――賃上げだけでは学校の長時間労働が終わらない理由
教員不足が止まらない最大の理由は、採用数だけではありません。病気休職や産休・育休が出ても授業を維持できる「予備の人員」が薄いうえ、授業外の仕事を学校から切り離せていないからです。
2026年から教員の処遇改善と働き方改革が新しい段階に入りました。しかし、給与を上げても業務の総量が変わらず、欠員を同僚の残業で埋める状態が続けば、人材流出の循環は止まりません。
この記事で押さえる要点は次の4つです。
- 2025年5月時点の「教師不足」は全国で3,827人。2021年度調査の2,065人から大きく増えた
- 不足は正規教員の定数だけでなく、産休・育休や病休を埋める臨時的任用教員の不足として表れやすい
- 改正給特法は処遇と管理を改善するが、仕事を減らす仕組みとしては自治体の実行力に左右される
- 必要なのは採用拡大、欠員に備えた人員、業務削減、支援職への財源を一体で整えること
何が起きているのか――「0.45%」では見えない学校現場
全国平均では小さく見える不足率も、学級担任や特定教科の担当者が一人欠ける学校にとっては重大です。
文部科学省が2026年3月に公表した令和7年度「教師不足」に関する実態調査によると、2025年5月1日時点の不足は3,827人、不足率は0.45%でした。内訳は次の通りです。
- 小学校:1,699人、0.44%
- 中学校:1,031人、0.47%
- 高等学校:508人、0.33%
- 特別支援学校:589人、0.71%
2021年度の同時点では合計2,065人、0.25%でした。単純比較には調査条件への注意が必要ですが、2025年度は43自治体で不足率が悪化し、改善した自治体は23にとどまりました。不足が発生していない自治体は68調査主体のうち8だけです。
法定定数は満たしていても、学校では欠員が出る
この数字を読む際には定義が重要です。
今回の「教師不足」は、国の法律に基づく標準定数そのものではなく、各都道府県・指定都市教育委員会が学校へ配置すると決めた人数に対する欠員です。文科省によれば、公立小中学校では義務標準法に基づく定数分が全国平均で100.9%充足していました。
それでも不足が起きるのは、実際の学校運営には次のような人員も必要だからです。
- 産休・育休、病気休職に入った教員の代替
- 少人数指導や特別支援学級を担当する教員
- 児童生徒支援や生徒指導を担う加配教員
- 中学・高校で特定教科を教える免許保有者
- 自治体が独自施策のために配置する教員
つまり「国の定数は足りている」という説明と、「学校に先生がいない」という現実は両立します。制度上の人数がそろっていても、必要な時期、地域、教科に資格を持つ人が配置できなければ、目の前の授業は回りません。
一人の欠員が周囲の仕事を増やす
小学校では、2025年5月時点で学級担任1,086人分を別の教職員が代替していました。専科指導や児童支援のために配置する予定だった教員、教務主任、管理職などが担任へ回る例があります。
この穴埋めは時間割上の欠員を消しても、もともと担当するはずだった仕事を消しません。少人数指導ができなくなる、教頭の管理業務が遅れる、他の教員の授業や校務分掌が増える、といった形で負担が移ります。
ここがポイント: 教員不足は「採用できなかった人数」だけの問題ではありません。欠員を校内で埋めた結果、別の教育活動や支援機能が弱くなるところまで見なければ実態をつかめません。
不足が止まらない四つの理由
教員不足は、採用・代替要員・仕事量・休職が相互に悪化させる循環になっています。
1.臨時講師という「調整弁」が細っている
教育委員会は、年度途中の産休・育休や病休に対し、臨時的任用教員や非常勤講師を充ててきました。しかし、講師登録者は無限ではありません。
文科省調査では、教育委員会が不足要因として挙げた項目に、次の事情が並びました。
- 産休・育休取得者の増加
- 病休者の増加
- 特別支援学級数が見込みより増えたこと
- 講師登録希望者の減少
- 登録者が別の学校や民間企業へ先に就職したこと
- 臨時講師が正規採用され、代替要員の名簿から抜けたこと
- 退職者や採用辞退者が見込みを上回ったこと
臨時講師の正規採用は、本人にとっても雇用の安定という点でも望ましい動きです。一方、正規採用を増やすほど代替要員名簿が細るという矛盾もあります。恒常的に必要な仕事を、不安定な臨時雇用の層で吸収してきた制度の限界です。
2.採用倍率の低下で「選ぶ余地」が狭くなった
2025年度採用選考では、公立学校全体の受験者数が前年度の11万6,182人から10万9,123人へ減少し、採用者数は3万6,421人から3万7,375人へ増えました。採用倍率は3.2倍から2.9倍へ低下しています。
倍率が下がっただけで直ちに教員の質が落ちるとは言えません。選考方法、併願、地域差、教科差があるためです。ただし、採用予定数を増やす一方で受験者が減れば、自治体が必要な人数と専門性を同時に確保する難度は上がります。
しかも教員採用は地域ごとに行われます。全国合計で人数がいても、人口流出地域、離島・山間部、特別支援教育、技術・情報など特定分野で同じように採れるわけではありません。
3.長時間労働が人を遠ざけ、不足がさらに残業を増やす
文科省の2022年度教員勤務実態調査では、時間外在校等時間が月45時間以下だった割合は、小学校35%、中学校23%程度でした。裏返せば、小学校の約65%、中学校の約77%が45時間を超えていたことになります。中学校では月80時間以上も約37%に上りました。
2016年度調査より改善した項目はあります。それでも、一般の職場なら例外的であるはずの長時間勤務が、学校では広い層に残りました。
人が欠けると、残った教員が授業、担任、保護者対応、校務分掌を引き受けます。疲労が蓄積して休職や退職が増えれば、翌年度の人員計画はさらに不安定になります。
2024年度に精神疾患で病気休職した公立学校の教育職員は7,087人でした。前年度から32人減ったものの、依然として高い水準です。すべてを長時間労働だけで説明することはできませんが、欠員を生みやすくする健康問題と、欠員後の負担増を切り離すこともできません。
4.学校が引き受ける課題が増え続けている
学校は授業だけをする場所ではありません。いじめ、不登校、特別支援、日本語指導、虐待の兆候、保護者相談、進路、端末管理、災害対応など、児童生徒をめぐる多くの課題に対応しています。
それぞれ必要な仕事です。問題は、課題が増えるたびに教員の校務として積み上がり、何をやめるかが決まりにくいことにあります。
「会議を短くする」「書類を電子化する」といった効率化は有効ですが、10時間かかる仕事を8時間にしても、新しい仕事が3時間増えれば総量は減りません。学校改革の核心は、仕事の手順ではなく、学校が引き受ける範囲を決め直すことです。
2026年の制度改革で何が変わったのか
改正給特法は、給与だけでなく教育委員会に勤務環境改善の計画と公表を求めた点が重要です。
2025年に成立した改正法により、2026年から主に三つの改革が動き始めました。
教職調整額を4%から10%へ段階的に引き上げる
公立学校教員には、原則として時間外勤務手当を個別に積算する代わりに、給料月額の一定割合を教職調整額として支給する仕組みがあります。その率は長く4%でしたが、2026年から毎年1ポイントずつ上げ、2030年度までに10%とする制度になりました。
処遇改善には明確な意味があります。
- 民間企業や他の公務職と人材を取り合う際の条件を改善する
- 担任など負担の重い職務を手当へ反映する
- 教職を高度な専門職として処遇する姿勢を示す
一方で、調整額は実際の残業時間に比例する時間外手当ではありません。長時間勤務そのものを削減する装置ではなく、給与を上げたことで業務の多さが容認されるなら逆効果です。
教育委員会に計画と実績の公表を義務付ける
2026年4月から、教育委員会は「業務量管理・健康確保措置実施計画」を策定・公表し、実施状況も公表することになりました。計画は首長が参加する総合教育会議にも報告されます。
これは従来より一歩進んだ仕組みです。教員の働き方を校長個人の努力に閉じず、予算や人員配置を握る教育委員会、さらに自治体全体の政策課題へ引き上げるからです。
政府は、教員一人当たりの平均時間外在校等時間を2029年度までに月30時間程度へ減らし、将来的には月20時間程度を目指しています。
ただし、平均値だけでは不十分です。中学校の部活動担当、学級担任、特別支援学級、教頭など、特定の人へ負担が集中していないかも同時に公表する必要があります。
定数改善と中学校35人学級を進める
2025年度予算では、小学校35人学級の進展分などを含め5,827人の定数改善が盛り込まれました。2026年度からは中学校35人学級に向けた制度整備も進んでいます。
少人数学級には、一人の教員が見る児童生徒を減らし、授業や生徒指導をきめ細かくする利点があります。ただし、学級数が増えれば必要な担任も増えます。採用や代替人材の確保が追いつかなければ、定数改善が「配置したいが人がいない」という新たな不足を表面化させる可能性があります。
なぜ賃上げだけでは解決しないのか
給与は人材確保の必要条件ですが、毎日の勤務を持続可能にする十分条件ではありません。
政策の効果と限界を整理すると、次のようになります。
| 政策 | 期待できる効果 | 残る課題 |
|---|---|---|
| 教職調整額の引き上げ | 採用競争力と処遇を改善する | 実労働時間と連動せず、業務量は直接減らない |
| 教員定数の改善 | 授業・担任・生徒指導を分担しやすくする | 採用候補者や代替要員が確保できなければ配置できない |
| 少人数学級 | 児童生徒への対応を細かくできる | 学級増に伴って必要教員数が増える |
| 校務DX | 入力、集計、情報共有を効率化する | 重複システムや紙との二重運用では負担が増える |
| 支援スタッフ配置 | 事務、福祉、心理、部活動を専門職と分担できる | 短時間・単年度雇用では人材が定着しにくい |
給与引き上げに反対する必要はありません。むしろ、長く据え置かれた処遇を見直すのは当然です。しかし、求人票の条件を改善して入口を広げても、入職後の働き方が持続不能なら定着しません。
さらに、給与だけを先行させると「高い調整額を払っているのだから長く働くのは当然」という誤解を招きかねません。制度上も政策上も、調整額の引き上げと時間外在校等時間の削減は別々に検証すべきです。
現実的な改革は「余白」と「業務移管」をつくること
欠員ゼロを前提にした配置を改め、誰かが休んでも教育活動が崩れない余白を持たせる必要があります。
年度途中の欠員に備える常勤人材を確保する
産休や病休が判明してから講師を探す方式では、候補者がすでに就職していることがあります。都道府県単位などで常勤の代替要員を一定数採用し、欠員発生時に配置できる仕組みが必要です。
これは一見すると「待機人員」のコストがかかります。しかし、欠員がない期間は少人数指導、新任支援、教材準備、特別支援などを担えます。余剰ではなく、教育の質と危機対応力を支える人員です。
教員でなくてもできる仕事を、本当に外へ出す
文科省は学校・教師の業務を分類し、登下校対応、放課後の見回り、学校徴収金、地域ボランティアとの調整などについて役割分担を促してきました。それでも移管が進まない地域では、受け皿となる人員と予算が足りない場合があります。
移管を実効的にするには、次の職種を安定雇用しなければなりません。
- 教員業務支援員:印刷、集計、教材準備、連絡などの事務補助
- スクールカウンセラー:心理面の専門支援
- スクールソーシャルワーカー:家庭、福祉、行政との連携
- 部活動指導員・地域クラブ人材:技術指導や大会引率
- ICT支援員:端末や校務システムの運用支援
単に「地域へ移す」と決めるだけでは、保護者の送迎負担や自治体間格差へ仕事が移るだけです。国と自治体は、受け皿の運営費まで含めて制度化する必要があります。
学校がやらないことを政治と行政が決める
現場に「工夫して減らしてください」と求めるだけでは、教育上の責任を負う校長や教員ほど仕事を手放しにくくなります。
授業時数、調査、報告書、行事、部活動、保護者への即時対応について、国と教育委員会が最低基準と廃止可能な業務を明示すべきです。特に新しい施策を追加するときは、同時に何を減らすか、誰を配置するか、何時間の業務が増えるかを示す必要があります。
反対論とトレードオフをどう考えるか
改革には費用も副作用もありますが、現状維持にも授業の質低下や休職増という費用があります。
「少子化なのに教員を増やすのか」
児童生徒数が減れば、総数として教員需要が縮む面はあります。しかし、学校や学級は児童生徒数と同じ割合では減りません。離島・山間部の学校、複式学級、特別支援、日本語指導などには一定の人員が必要です。
少子化を理由に採用を絞りすぎると、年齢構成がゆがみ、数年後の大量退職や休職に対応できません。必要なのは一律増員ではなく、地域、教科、年齢構成を踏まえた複数年採用です。
「部活動や行事を減らせば教育が薄くなる」
部活動や学校行事には、協働、責任感、地域とのつながりを育てる価値があります。一律廃止が答えではありません。
ただし、価値があることと、教員が無制限に担うことは別問題です。活動日数や大会数を整理し、地域人材と分担し、勤務時間内で運営できない部分には人件費を付ける。この線引きが必要です。
「支援スタッフを増やすより正規教員を増やすべきだ」
授業、成績評価、学級経営など、免許と専門性を持つ教員が担うべき仕事はあります。一方、すべてを正規教員へ集めると、専門職が事務や福祉調整まで抱えます。
正規教員と支援職は代替関係ではありません。教員が教育に集中するための補完関係です。財源配分では、教員定数と支援職のどちらか一方を選ぶのではなく、各業務を誰が担うかに応じて組み合わせるべきです。
家庭と地域にはどんな影響があるのか
教員不足の負担は学校内で完結せず、児童生徒、保護者、地域の教育条件へ広がります。
欠員が校内で埋められない、または別の教員が兼務すると、次の影響が起こり得ます。
- 担任交代が増え、児童生徒との継続的な関係を築きにくくなる
- 少人数授業や補習を取りやめ、一斉授業へ戻す
- 教科免許を持つ教員が不足し、時間割の変更が増える
- 教員が相談や教材研究に使える時間が減る
- 行事や部活動を縮小し、保護者・地域へ役割を求める
- 管理職が授業の代替に入り、学校全体の安全管理や人材育成が弱くなる
特に影響が大きいのは、家庭だけでは補いにくい子どもです。学習の遅れ、障害、不登校傾向、家庭の困難などを抱える場合、学校での早期発見と個別支援が重要になります。教員不足は、教育格差を広げる要因にもなり得ます。
国家と社会の持続性という観点でも、学校は基礎学力、人材育成、地域の生活基盤を支えるインフラです。欠員を毎年のやりくりで済ませることは、将来の人材と地域維持にコストを先送りすることになります。
今後見るべき数字――計画ではなく結果を確認する
2026年度以降は、予算額や制度名より、各自治体で勤務時間と欠員が実際に減ったかが評価軸になります。
注目すべきポイントは次の通りです。
- 教師不足3,827人が翌年度に減るか。始業時だけでなく年度途中も確認できるか
- 平均時間外在校等時間が減る一方、45時間・80時間超の人数も減るか
- 学級担任、教頭、部活動担当などへの負担集中が改善するか
- 教職調整額の引き上げ後、受験者数と採用後の定着率が回復するか
- 産休・育休、病休の代替者を年度途中でも確保できるか
- 教員業務支援員などが単年度の短時間雇用ではなく、継続配置されるか
- 業務を学校外へ移した結果、保護者負担や自治体間格差が拡大していないか
教育委員会の実施計画には、単なる「会議削減」や「意識改革」ではなく、削減する業務、配置する人員、必要な予算、達成期限を記載すべきです。住民や議会も、公表資料を通じてその内容を比較できます。
まとめ――学校改革の成否は「休める人員配置」で決まる
事実として、2025年5月時点の教師不足は3,827人に達し、2021年度調査より拡大しました。長時間勤務は改善傾向があるものの、月45時間を超える教員が依然として多く、精神疾患による休職者も高い水準にあります。
改正給特法による処遇改善、教育委員会の計画公表、教職員定数の改善は必要な前進です。しかし、給与だけでは授業外の仕事は減らず、定数を増やしても採用候補者がいなければ配置できません。
政策の焦点は、次の三つに絞るべきです。
- 欠員が出る前提で、常勤の代替要員を確保する
- 教員以外が担う業務に、受け皿と継続財源を付ける
- 新しい教育施策を加えるたびに、廃止・縮小する業務も決める
次に確認すべきなのは賃上げ率だけではありません。教員が病気や育児で休んでも、残った誰かが過重労働にならず、子どもの授業と支援が維持されるか。そこまで実現して初めて、学校改革は教員不足を止める力を持ちます。
