MENU

関東震度5弱が突きつけた課題――首都圏の水道耐震化を急ぐべき理由

地震後の東京都内で破損した水道管を点検する作業員たち。

関東震度5弱が突きつけた課題――首都圏の水道耐震化を急ぐべき理由

8月23日未明、茨城県南部を震源とする地震が発生し、関東の1都3県で最大震度5弱を観測しました。今回の被害が示した政策上の核心は、首都圏の水道耐震化がまだ道半ばであり、限られた予算と工事能力を「壊れたときの影響が大きい管路」へ集中させる必要があるという点です。

東京都の管路全体を短期間で更新するのは現実的ではありません。病院や避難所への給水、配水網の上流にある骨格管路、漏水リスクの高い管を優先し、復旧要員と資材まで含めて備えることが重要です。

  • 震源は茨城県南部、深さ約70キロ、マグニチュード5.9
  • 8月23日午前10時時点で37人が負傷し、東京都内では断水の相談も発生
  • 東京都の水道管路は約2万8,000キロあり、2024年度末の耐震継手率は52%
  • 耐震化率だけでなく、発災後にどれだけ早く給水を戻せるかが政策評価の要点
目次

8月23日の地震で何が起きたのか

気象庁によると、地震は8月23日午前2時ごろ発生しました。震源は茨城県南部、深さは約70キロ、規模はマグニチュード5.9です。茨城、埼玉、千葉、東京の17市区町で震度5弱が観測されました。

埼玉県南部、千葉県北西部、東京都23区では、高層建物への影響を見る指標である長周期地震動階級2も観測されています。

8月23日午前11時27分までの報道では、主な影響は次の通りです。

  • 午前10時時点で、1都5県の計37人が負傷
  • 横浜市では、ベッドから転落した80代女性が重傷
  • 東京・江東区など3カ所で水道管から水があふれ、一時的に道路が冠水
  • 東京都内で、水が出ないとの相談が約100件
  • 京浜東北線や常磐線快速などが一時運転を見合わせ

政府は官邸危機管理センターに連絡室を設置し、被害状況の把握や自治体との連携に着手しました。初動として必要な対応ですが、政策評価は連絡室を設置した事実だけでは決まりません。水道、鉄道、エレベーターなどの障害をどれだけ早く把握し、生活機能を戻せるかが問われます。

なお、負傷者数や被害状況は今後更新される可能性があります。気象庁は、今後1週間程度は最大震度5弱程度の揺れに注意するよう呼びかけています。

水道管の破損が示した首都圏の弱点

今回の地震は首都直下地震の被害想定そのものではありません。それでも、水道管の破損と断水相談が実際に発生したことは、都市インフラの弱点を具体的に示しました。

東京都水道局が管理する配水管は約2万8,000キロに及びます。道路の地下には下水道、ガス、電力、通信設備も通っており、交通量の多い場所で水道管だけを自由に交換できるわけではありません。

東京都は、古く外部衝撃に弱い高級鋳鉄管から、強度の高いダクタイル鋳鉄管への更新を99.9%まで進めました。一方、地震時に継ぎ目が抜けにくい耐震継手管の割合は、2024年度末で52%です。

つまり、老朽管対策が進んでいても、管路全体の地震対策が完了したわけではありません

全管路を一律に更新できない理由

水道管の更新には、費用だけでなく施工上の制約があります。

  • 地下埋設物が集中する場所では工事が難しい
  • 幹線道路では交通規制や道路管理者との調整が必要
  • 配水区域の上流にある管は、長期間止めにくい
  • 工事を担う技術者や事業者にも限りがある
  • 資材価格や人件費の上昇が事業費を押し上げる

このため、「耐震化率を毎年何ポイント上げたか」だけを追うと、政策の優先順位を誤るおそれがあります。重要なのは、一本の破損で病院、避難所、広い住宅地への給水が止まる管を先に守ることです。

ここがポイント: 水道政策で優先すべきなのは、管路を端から均等に交換することではありません。壊れた場合に広域断水を招く骨格管路と、病院・避難所につながる供給ルートへ人員と予算を集中させることです。

東京都の計画はどこまで進んでいるのか

東京都は2026年1月に公表した「東京水道施設整備マスタープラン」で、2035年度末までの目標を示しています。

  • 管路の耐震継手率:52%から66%へ
  • 地域配水の骨格管路の耐震継手率:55%から76%へ
  • 都心南部直下地震を想定した断水率:24%から16%へ
  • 想定される断水の復旧日数:14日以内から13日以内へ

骨格管路を重点化する方向は妥当です。能登半島地震では、配水網の上流側が損傷したため、被害箇所を調べるための通水さえ難しくなり、断水の長期化につながりました。

ただし、2035年度になっても想定断水率は16%、復旧日数は13日以内です。「耐震化が進めば断水しない」という計画ではありません。発災後の給水支援や生活維持策を並行して整える必要があります。

暮らしと経済にどう影響するのか

水道停止の影響は、飲料水の不足にとどまりません。

家庭ではトイレと衛生が先に問題になる

断水すると、炊事、洗濯、入浴に加え、水洗トイレの利用が難しくなります。集合住宅では、建物自体に被害がなくても給水ポンプの停止や配管損傷によって水が使えない場合があります。

家庭での備蓄は必要です。しかし、13日規模の断水を各家庭だけで乗り切るのは現実的ではありません。応急給水拠点、災害用トイレ、在宅避難者への情報提供を自治体が具体化する必要があります。

医療・介護施設では断水がサービス停止に直結する

病院では、診療、手術、透析、器具の洗浄などに水が欠かせません。介護施設でも、食事、排せつ、清掃を維持するには安定した給水が必要です。

国土交通省は、上下水道耐震化計画の対象として、災害拠点病院、避難所、警察、消防、自治体庁舎などにつながる管路を位置付けています。2025年12月時点の計画策定率は水道事業者97%、下水道事業者99%でした。

次に問われるのは、計画を作ったかではなく、重要施設までの水道と下水道を一体で実際に工事したかです。

首都機能への影響は全国へ波及する

首都圏には中央省庁、金融、物流、企業本社が集中しています。断水や交通障害が長引けば、東京周辺だけでなく全国の取引、行政手続き、部品供給に影響します。

水道耐震化は自治体の生活政策であると同時に、日本経済の事業継続と行政機能を守る国土強靱化政策でもあります。

批判的に見るべき3つの論点

方向性が正しくても、実行方法を検証しなければ計画倒れになります。

1.成果指標が住民の実感に結び付いているか

耐震継手率は重要ですが、住民が知りたいのは「自分の地域で何日断水するのか」「どこで水を受け取れるのか」です。

自治体は、少なくとも次の情報を地域単位で示すべきです。

  • 想定断水率と復旧日数
  • 応急給水拠点の場所と給水能力
  • 病院・避難所への供給ルートの耐震化状況
  • 断水時に利用できる災害用トイレ

2.更新費用を誰が負担するのか

水道事業は原則として料金収入で経営されます。更新を急げば事業費が増え、料金改定の議論が避けられない地域も出ます。

一方、料金を抑えるために更新を遅らせれば、破損時の断水、道路陥没、緊急復旧費が膨らみかねません。国は、全国一律の補助ではなく、重要施設への供給や広域的な影響が大きい事業へ重点的に財政支援する必要があります。

3.復旧する人と資材を確保できるか

管路をすべて耐震化するまでには時間がかかります。それまでの間は、漏水箇所を見つけ、道路を掘り、管を修理する人員が不可欠です。

自治体間の応援協定があっても、首都圏の広域で同時に被害が出れば、応援側も被災します。近隣自治体だけに依存せず、全国からの応援部隊、資材置き場、給水車の進入経路まで事前に決めておくべきです。

別の見方――耐震化だけに予算を集中すべきではない

水道管の更新を急ぐことには、慎重論もあります。限られた財源の中で、住宅の耐震化、木造密集地域の火災対策、橋や道路の補強、通信網の強化も必要だからです。

この指摘は重要です。水道管だけを強くしても、道路が通れず修理隊が到着できなければ復旧は遅れます。停電でポンプが動かなければ、配水にも支障が出ます。

したがって必要なのは、水道予算の無条件な拡大ではありません。

  • 人命に直結する病院・避難所への供給
  • 広域断水を防ぐ骨格管路
  • 緊急輸送道路や電力設備との連携
  • 応急給水とトイレ対策

これらを一つの地域防災計画として優先順位付けすることが、現実的な選択になります。

今後確認すべきこと

今回の地震を一過性のニュースで終わらせないため、政府と自治体には検証結果の公開が求められます。

  • 破損した水道管の材質、設置年、継手の種類
  • 断水相談が発生した地域と原因
  • 交通機関やエレベーターの停止・復旧時間
  • 官邸、東京都、周辺県、市区町村の情報共有に遅れがなかったか
  • 予定している耐震化工事の優先順位を見直す必要があるか

特に重要なのは、破損地点が既存計画でどのような優先度に置かれていたかです。想定外だったならリスク評価を改め、把握済みだったなら工事が遅れた理由を検証しなければなりません。

まとめ

8月23日の地震では、政府の初動と同時に、首都圏の水道や交通が強い揺れにどう反応するかが現実の形で表れました。

事実として、東京都の耐震継手率は2024年度末で52%です。2035年度末の目標を達成しても、大規模地震時には16%の断水と、最長13日程度の復旧期間が想定されています。

今後の焦点は、耐震化率という一つの数字ではありません。病院や避難所へ水を届けられるか、広域断水を防げるか、壊れた管を何日で直せるか。今回の破損地点と断水相談を検証し、2027年度以降の工事順位と予算配分へ反映できるかが次の注目点です。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次