防衛費8.9兆円の最終年度へ――2027年度予算で問われる「増額の中身」と国民負担
2027年度の防衛予算で重要なのは、8.9兆円という金額そのものではありません。政府が2022年に決めた5年間の防衛力整備を、実際に使える装備、人員、補給、施設へ転換できるかが問われます。
同時に、所得税・法人税・たばこ税による財源措置が家計や企業に及ぶ時期でもあります。防衛力の強化が必要だとしても、調達の遅れやコスト上昇を放置したまま負担だけを増やすことは認められません。
- 2027年度は現行の防衛力整備計画の最終年度
- 計画上の防衛関係費は8.9兆円程度だが、予算総額とは範囲が異なる
- 2026年度予算では計画対象経費が8兆5,353億円まで増加
- 次の焦点は、装備の保有数よりも隊員、弾薬、整備、継戦能力
2027年度の「8.9兆円」は何を意味するのか
政府は2022年12月に決定した防衛力整備計画で、2023年度から2027年度までの整備水準を43兆円程度としました。このうち、各年度の予算に計上する防衛関係費は5年間で40.5兆円程度、2027年度は8.9兆円程度と見込まれています。
ここで注意したいのは、8.9兆円が防衛関連支出のすべてではないことです。
防衛省の計画対象経費とは別に、沖縄の基地負担軽減に関する経費、米軍再編関係経費、海上保安庁予算、国際平和協力活動などがあります。このため、「8.9兆円」と「安全保障関連経費全体」を同じ数字として扱うと、議論を誤ります。
財務省の2026年度防衛関係予算の解説によると、同年度の防衛関係予算全体は9兆353億円です。一方、防衛力整備計画の対象経費は、防衛省資料で8兆5,353億円とされています。
つまり、2027年度の予算を見る際には、少なくとも次の数字を分ける必要があります。
- 防衛力整備計画の対象経費
- SACO・米軍再編関係経費を含む防衛省予算
- 海上保安庁などを含む安全保障関連経費
- 新たに結ぶ契約の総額と、その年度に実際に支払う歳出額
最終年度に問われるのは「買ったか」ではなく「使えるか」
5年間の計画が終盤に入ると、予算の消化率だけでは成果を測れません。装備を契約しても、納入されず、操作する隊員がおらず、弾薬や部品が不足していれば、抑止力にはならないからです。
長期契約は将来の予算を拘束する
艦艇、航空機、誘導弾などは、契約から納入まで複数年を要します。初年度の支払いが小さくても、その後の年度には残額の支払いが続きます。
円安や原材料価格の上昇が重なれば、同じ予算でも取得できる装備の数は減ります。2027年度予算では、新規契約額だけでなく、過去に結んだ契約の支払額と納入予定を確認する必要があります。
人員と維持費は後回しにできない
装備品は、取得後にも費用がかかります。
- 操作・整備を担う自衛官の確保と教育
- 燃料、弾薬、交換部品の備蓄
- 基地・駐屯地の耐震化や地下化
- サイバー、宇宙、無人機分野の専門人材
- 宿舎や勤務環境を含む隊員の処遇
防衛省の2026年度予算資料では、スタンド・オフ防衛能力、無人アセット、統合防空ミサイル防衛と並び、人的基盤の強化も掲げられています。2027年度は、装備の導入と人員・維持基盤が釣り合っているかを点検すべき年です。
ここがポイント: 防衛費の増額は、それだけで防衛力の増加を意味しません。装備、人員、弾薬、整備施設、指揮通信が一体として機能して初めて、国民の安全につながります。
国民生活への影響は財源面から表れる
防衛力強化の財源は、歳出改革、決算剰余金、防衛力強化資金、税制措置などを組み合わせる設計です。なかでも生活者や企業に直接関係するのが税負担です。
財務省が公表した防衛力強化に係る税制措置では、法人税とたばこ税の措置が先行して決まりました。さらに2026年度税制改正の解説では、防衛特別所得税を2027年1月から導入する制度が示されています。
主な影響は次の通りです。
- 企業:防衛特別法人税は法人税額に4%を付加。ただし、課税標準となる法人税額から500万円を控除
- 喫煙者:国のたばこ税を2027年4月から3段階で引き上げ
- 所得税の納税者:2027年分から防衛特別所得税が始まる一方、復興特別所得税との調整が行われる
税制全体の負担は、名目税率だけでは判断できません。復興財源との調整、賃上げ、物価上昇、社会保険料を含めて、家計の可処分所得がどう変わるかを見る必要があります。
増額を支持する側にも説明責任がある
日本周辺では、弾道・巡航ミサイル、無人機、サイバー攻撃、海空域での活動が複合化しています。長射程ミサイルや無人機への対処能力、弾薬備蓄、基地の強靱化を進める必要性は高いといえます。
ただし、安全保障環境が厳しいという説明だけで、すべての支出が正当化されるわけではありません。政府と国会には、少なくとも次の説明が求められます。
- 何を、何年度までに、どれだけ配備するのか
- 当初計画から遅れた事業と、その理由は何か
- 円安や物価上昇で数量を減らした装備はあるか
- 国内の防衛生産・修理能力をどこまで維持できるか
- 装備導入後の維持費を将来予算で賄えるか
特に、2027年度で現行計画が終わった後も維持費は残ります。次期計画が単純な上積みになれば、社会保障、子育て、国土強靱化、エネルギー安全保障との予算配分は一段と難しくなります。
「GDP比2%」だけでは優先順位を決められない
防衛関連経費をGDP比で示す方法には、国際比較がしやすい利点があります。一方、比率は支出の効果を示しません。GDPが変動すれば比率も動き、何を購入し、どの脅威に備えたのかは見えないからです。
防衛費を抑えれば財政負担は軽くなりますが、必要な備蓄や施設整備が不足すれば、有事の損失はより大きくなりかねません。逆に、目標額を先に置いて事業を積み上げれば、非効率な調達や将来負担を招きます。
現実的な判断軸は、金額の大小ではなく次の三つです。
- 日本が単独で備えるべき能力は何か
- 同盟国や同志国との分担で補える能力は何か
- 限られた人員と財源で、最も高い抑止効果を得られる事業は何か
今後の注目点
2027年度予算の概算要求から年末の政府案まで、見るべき点は明確です。
- 8.9兆円という計画額と、実際の要求額・政府案との差
- 2023年度からの契約について、納入と支払いが予定通り進んでいるか
- 弾薬、部品、燃料、施設、人員への配分が増えているか
- 防衛特別所得税などの税収見込みと、歳出改革による財源の実績
- 現行計画終了後の防衛力整備と維持費の見通し
2027年度は、5年間の増額を完了させるだけの年ではありません。政府が示すべきなのは、追加された予算が、どの部隊で、いつ、どのように国民を守る能力へ変わったのかです。概算要求では、金額より先に納期、稼働率、人員、備蓄量を確認する必要があります。
