外国人の土地取得規制、答えは「国籍」より「場所と利用目的」にある
外国人による土地取得は、全国一律に禁止するのではなく、防衛施設、国境離島、重要インフラ、水源などに対象を絞り、取得前に実質的支配者と利用目的を審査できる制度へ改めるべきです。
安全保障上の危険は、買い手の国籍だけでは測れません。日本人名義や国内法人を介した取得もあり得る一方、日本で暮らす外国人による自宅購入まで広く制限すれば、私有財産、住宅市場、対日投資に余計な負担をかけます。
この記事の要点は次の4つです。
- 現行制度は重要区域の「利用」を規制するが、取得そのものを一律には止めない
- 2024年度、重要施設周辺等で外国人等による取得と把握された土地・建物は3,498筆・個、取得総数の3.1%だった
- この数字だけでは安全保障上の危険や全国的な取得禁止の必要性を証明できない
- 現実的な改革は、国籍別禁止ではなく、重要区域に限定した事前審査と実質的支配者の確認である
いま何が変わろうとしているのか
政府は2026年夏をめどに新たな土地取得ルールの骨格をまとめる方針ですが、8月1日時点で全国一律の取得禁止が決まったわけではありません。
内閣官房の「外国人による土地取得等のルールの在り方検討会」は、2026年3月4日に初会合を開き、7月21日までに4回開催されました。検討対象には、次のような選択肢が含まれています。
- 誰を対象にするか:外国人・外国法人に限るか、国籍を問わず危険な取引を対象にするか
- 何を求めるか:許可制、審査付き事前届出、報告義務、立入検査など
- どこを対象にするか:重要施設周辺、国境離島、水源地、その他の重要区域
- 何を確認するか:名義上の所有者、法人の実質的支配者、資金源、取得目的、取得後の利用
政府は並行して、取得実態を把握する仕組みも増やしています。2026年4月から、森林法、国土利用計画法、重要土地等調査法に基づく一部の届出では、法人代表者や役員・議決権の構成に関する国籍情報が追加されました。国外居住者による不動産取得についても、外為法に基づく報告対象が広げられています。
不動産の移転登記などに国籍情報を追加する仕組みも、2026年度中の導入が予定されています。ただし、国籍の把握は規制そのものではありません。誰が、どこを、何のために取得したのかを検証するための入口です。
現行法は「所有」より「危険な利用」を見ている
現在の中心制度である重要土地等調査法は、外国人だけを対象とする法律ではなく、重要区域で施設機能を妨げる利用を防ぐ法律です。
同法は、防衛関係施設、海上保安庁施設、重要インフラの周囲おおむね1,000メートルや国境離島などを「注視区域」に指定します。特に重要な区域は「特別注視区域」とされます。
制度の主な仕組みは次のとおりです。
- 土地・建物の所有者や利用者、利用状況を調査する
- 機能を阻害する利用が確認された場合、利用中止などを勧告・命令する
- 特別注視区域では、一定規模以上の所有権移転などを事前届出の対象にする
- 必要な土地について、所有者から国への買い取り申出を受ける仕組みを設ける
ここで重要なのは、現行法が「外国人が買った」という事実だけで直ちに違法としない点です。監視設備への妨害、施設機能を狙った電波妨害、国境離島の機能を損なう利用など、実際の利用と安全保障上の危険を結び付けて判断する設計になっています。
一方、取得後に調べて利用を止める方式では、手遅れになる場面もあります。防衛施設に隣接する土地が秘密裏に取得され、所有構造が複雑化してから実態を解明するのは難しい。現行制度の弱点は、ここにあります。
ここがポイント: 安全保障上の重要区域では、問題が起きた後の利用規制だけでなく、契約前に買い手、資金源、利用目的を確認する仕組みが必要です。ただし、その審査は国籍だけで機械的に決めるべきではありません。
「3,498件」をどう読むべきか
政府公表の数字は実態把握の前進ですが、危険な取得が3,498件あったという意味ではありません。
内閣府の2024年度調査では、重要施設周辺等の注視区域において、外国人等による取得と把握された土地・建物は3,498筆・個でした。区域内の取得総数に占める割合は3.1%で、国・地域別では中国が1,674筆・個と最多です。
ただし、この集計から直ちに分かるのは「取得者の属性と件数」までです。
- 取得目的が居住、事業、投資、安全保障上の活動のどれだったか
- 取得によって施設の機能に具体的な支障が生じたか
- 名義上の取得者と、資金を出した実質的支配者が同じか
- 取得後に転売や用途変更が行われたか
こうした点を分けなければ、件数はリスク評価になりません。また、2023年度と2024年度では調査対象区域や期間が異なるため、単純な前年比較もできません。
数字を過小評価する必要はありません。防衛施設や国境離島の近くでは、少数の取引でも重大な結果を招く可能性があります。しかし、国籍別件数だけを根拠に全国の住宅や事業用地まで制限するのも飛躍です。
必要なのは、件数を増減させることではなく、危険度の高い取引を抽出できるデータへ変えることです。
規制は「三つの層」に分けるべきだ
安全保障と私有財産を両立させるには、土地の重要度に応じて規制を三段階に分ける方法が現実的です。
第1層:一般の住宅・事業用地
一般区域では、外国人であることだけを理由とする許可制は設けず、登記時の本人確認と国籍・居住地、法人の実質的支配者、資金源を把握します。
対象は外国人だけに限るべきではありません。海外政府や外国法人の影響を受ける国内法人、日本人の名義を借りた取引を見落とすからです。
この層では、マネーロンダリング、脱税、空き家、投機的転売といった問題を、安全保障とは別の政策手段で扱います。住宅価格の高騰には住宅・税制政策、違法民泊には建築・旅館業法制で対応する方が、原因と手段が一致します。
第2層:重要施設周辺と水源・基幹インフラ
防衛施設、原子力関連施設、空港、港湾、通信拠点、重要な水源など、機能停止が国民生活に大きく響く区域では、審査付き事前届出を基本とします。
審査項目には少なくとも次が必要です。
- 最終的に資金や意思決定を支配する個人・組織
- 買収資金の出所と融資者
- 取得後の具体的な用途
- 高い構造物、掘削、電波設備、撮影・観測設備の設置予定
- 取得者と外国政府、軍、情報機関、制裁対象者との関係
審査期間には明確な上限を設け、問題がなければ速やかに取引できるようにします。不許可や条件付き許可には理由を示し、不服申立てや司法審査の道も確保すべきです。
第3層:代替困難な最重要区域
司令部機能を持つ防衛施設、領海の基点となる離島など、取得自体が重大な危険を生み得る狭い区域では、許可制や国による優先買い取りを検討できます。
ただし、対象区域は地図と基準を可能な限り明示し、定期的に見直す必要があります。「安全保障上必要」という一言で区域を際限なく広げれば、土地所有者は売却可能性や資産価値を予測できません。
私有財産との線引きはどこにあるのか
財産権は絶対無制限ではありませんが、制約には法律上の根拠、必要性、合理性が求められます。
日本国憲法29条は財産権を保障する一方、その内容を公共の福祉に適合するよう法律で定め、私有財産を公共のために用いる場合には正当な補償を求めています。
したがって、安全保障を目的とする土地規制が直ちに憲法違反になるわけではありません。問題は規制の幅と深さです。
合理性を判断する軸は、次のように整理できます。
- 目的との関係:対象地の取得が、防衛や重要インフラにどのような危険をもたらすのか
- 代替手段:取得禁止ではなく、利用規制や条件付き許可で危険を減らせないか
- 対象の狭さ:全国一律ではなく、重要区域に限定されているか
- 手続の公正さ:審査基準、期限、理由提示、不服申立てが整っているか
- 損失への対応:国による買い取りや補償が必要なケースを定めているか
特に注意すべきなのは、既に所有している土地への遡及的な規制です。売却命令まで導入するなら、取得時に合法だった所有者へ大きな負担を課します。機能阻害行為が具体化している場合と、所有者の属性だけが問題視される場合を分けなければなりません。
国籍だけの規制では抜け穴が残る
「外国人は不可」という単純な制度は分かりやすく見えて、実務では抜け穴と過剰規制を同時に生みます。
第一の抜け穴は国内法人です。日本で設立された法人の株式や議決権を海外主体が支配していても、法人の所在地だけを見れば国内企業に見えます。
第二は名義貸しです。日本人や国内事業者が名義上の所有者となり、別の主体が資金と利用を支配すれば、国籍による線引きだけでは捉えられません。
第三は取得後の変化です。購入時には問題がなくても、その後の株式譲渡、転貸、用途変更によって支配者や利用目的が変わる場合があります。
だからこそ、制度は次の二つを組み合わせる必要があります。
- 取得時に、実質的支配者と資金源を確認する
- 重要区域では、支配関係や用途の重大な変更も届け出させる
これは外国人排除ではなく、重要な土地を誰が実際に支配し、どう使うのかを継続して確認する仕組みです。
国際約束と対日投資も無視できない
外国人だけを不利に扱う制度は、WTOのサービス貿易一般協定(GATS)など国際約束との整合性を精査しなければなりません。
政府の検討資料も、形式上は内外無差別の措置であっても外国サービスに不利な効果を生じさせる場合があり、反対に形式的な差が直ちに違反を意味するわけでもないと整理しています。安全保障例外を使えるかも、措置の対象と必要性を具体的に検討する必要があります。
諸外国の制度も一様ではありません。
- 韓国は、外国人による軍事基地区域などの土地取得に許可を求める制度を持つ
- シンガポールは住宅用不動産の種類や購入者属性に応じ、取得制限や追加印紙税を設ける
- ドイツには、政府資料が把握する範囲で外国人を対象とした一般的な不動産取得・利用規制がない
外国の一制度だけを切り取って日本へ移植することはできません。住宅政策、税制、国際約束、国土の広さ、安全保障環境が異なるためです。
対日投資への影響もあります。工場、研究所、ホテル、物流拠点の整備には土地が要るため、審査範囲が曖昧で期間も読めなければ、問題のない投資まで他国へ流れかねません。
逆に、対象区域と審査期限が明確なら、投資家にとっても予見可能性が高まります。規制の有無だけでなく、透明で迅速に運用できるかが国益を左右します。
生活者と地域にはどう影響するか
制度の影響は、基地周辺の所有者、外国籍の住民、不動産事業者、自治体で異なります。
基地や重要施設の周辺で土地を持つ人
区域が広がったり許可制が導入されたりすれば、買い手が減り、売却までの期間が長くなる可能性があります。国が取引を止めるだけでなく、必要に応じて適正価格で買い取る仕組みがなければ、負担を地域住民だけに押し付けることになります。
日本で暮らす外国籍の住民
永住者や長期在留者が自宅を買う場面まで一律に制限すれば、地域への定着を妨げます。安全保障上の重要区域を除く通常の住宅取得は、居住実態や法令順守を踏まえ、一般取引として扱うのが妥当です。
不動産会社と金融機関
本人確認、支配者確認、資金源調査が増えれば事務負担は重くなります。申告項目を省庁ごとに重複させず、登記、外為法、国土利用計画法などの情報を行政内部で適切に連携する必要があります。
自治体
水源、森林、空き家、開発許可などの相談は自治体に集まります。しかし安全保障情報を自治体だけで評価するのは困難です。区域指定と危険性の判断は国が担い、自治体は土地利用や生活環境に関する情報を提供する役割に絞る方が現実的です。
規制強化への反対論にも理由がある
慎重論は安全保障を軽視しているのではなく、立法事実と規制効果を問うものです。
主な反論は三つあります。
- 取得件数と危険な利用との因果関係が十分に示されていない
- 所有者の国籍より、利用規制を徹底する方が直接的である
- 広すぎる規制は住宅市場、地域経済、対日投資を冷やす
これらは重要な指摘です。とりわけ、地価高騰、空き家、民泊、水資源、安全保障を「外国人土地問題」という一つの箱に入れると、原因に合わない政策が生まれます。
一方、取得後の命令だけでは防げない危険もあります。重要施設の隣接地や代替不能な離島では、契約前の審査に合理性があります。
したがって争点は「規制するか、しないか」ではありません。どの土地について、どの危険を、どの手続で防ぐかです。
今後の制度設計で確認すべきこと
今後の焦点は、規制対象を広げる政治的な掛け声ではなく、審査基準と救済手続を法文に落とせるかです。
骨格や法案が示された際は、次の点を確認する必要があります。
- 「安全保障上重要な土地」の範囲が客観的に定められているか
- 外国人だけでなく、国内法人を介した実質的な外国支配も確認できるか
- 自宅購入、相続、既存所有者、永住者をどう扱うか
- 審査期間に上限があり、通常の取引を不必要に止めないか
- 不許可の理由提示、不服申立て、司法審査が用意されるか
- 売却制限で特別な損失が生じる場合、買い取りや補償をどうするか
- 取得件数ではなく、危険な利用や阻害行為の検出実績を公表できるか
- 登記後の株主変更、転貸、用途変更を追跡できるか
まとめ――守る土地を絞り、支配者と用途を審査する
日本が採るべきなのは、外国人による土地取得の全国一律禁止ではなく、重要区域に絞った実効的な事前審査です。
事実として、現行の重要土地等調査法は主に利用を規制し、一般の土地取得を外国人という理由だけで禁止していません。2024年度には重要施設周辺等で3,498筆・個の取得が把握されましたが、それ自体は危険な利用の件数ではありません。
制度を強くするなら、見るべきものは国籍だけではなく、土地の重要性、実質的支配者、資金源、利用目的です。同時に、区域の限定、審査期限、理由提示、救済、必要な補償を整えなければなりません。
次に注目すべきなのは、政府が示す制度骨格に「誰を規制するか」だけでなく、何を危険と認定し、行政の判断を誰が検証するのかまで書き込まれるかです。そこが曖昧なら、安全保障にも私有財産にも強い制度にはなりません。
