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窓口を減らす前に、手続きを減らせ――行政DXで守るべき住民サービス

オンライン申請と対面支援が併存する自治体窓口のイメージ。

窓口を減らす前に、手続きを減らせ――行政DXで守るべき住民サービス

行政手続のデジタル化で最も便利になるのは、平日の開庁時間に役所へ行きにくい現役世代、子育て世帯、介護者、遠方に住む人である。一方、オンライン申請の導入を理由に窓口を先に縮小すれば、高齢者、障害のある人、日本語に不慣れな人、複雑な事情を抱える人ほど不便になりやすい。

行政DXの目的は窓口を消すことではない。簡単な手続きをオンラインへ移し、対面支援が必要な住民に職員の時間を振り向けることだ。 成否を分けるのは、オンラインと対面の二者択一ではなく、相談から処理完了までを一体で設計できるかどうかである。

この記事で分かること

  • オンライン化の恩恵を受けやすい人と、取り残されやすい人
  • 「書かない窓口」と窓口縮小が同じではない理由
  • 行政DXで本当に削るべきコスト
  • 自治体が窓口再編の前に確認すべき指標
目次

いま進んでいるのは「オンライン化」と「窓口DX」の二本立て

政府の政策は、住民を一律にオンラインへ移す内容ではなく、自宅で完結できる手続と、来庁者の負担を軽くする窓口改革を並行して進めるものだ。

デジタル庁は、スマートフォンなどで行政手続が完結することを目指し、子育て・介護関係を含む手続のオンライン化を進めている。2026年6月16日更新の説明では、2025年12月末時点で国民の約8割がマイナンバーカードを保有しているとし、その利用機会を広げる方針を示した。行政手続のオンライン化は、保育施設の利用申込や要介護・要支援認定の申請など、住民と自治体双方への効果が大きい手続を重点対象としている。

もう一つが、自治体窓口DXの「書かないワンストップ窓口」だ。こちらは来庁をなくす施策ではない。窓口に来た住民が何度も同じ住所や氏名を書き、複数の課を回る負担を減らす。デジタル庁も「書かない、待たない、回らない」を掲げ、デジタルに不慣れな人が来庁した場合を明確に想定している。自治体窓口DXの取組では、2026年3月に自治体の取組状況を確認できるダッシュボードも公開された。

整理すると、政策上の手段は三つある。

  • オンライン完結:申請、本人確認、決済、通知まで自宅などで済ませる
  • 窓口のデジタル化:職員が聞き取り、申請データを作成して住民の記入や庁内移動を減らす
  • 対面相談:家族関係、所得、障害、介護など、事情を聞かなければ適切な制度へつなげにくい案件を扱う

この三つを混同すると、「オンライン申請を用意したのだから、窓口を減らせる」という短絡が起きる。

誰が便利になり、誰に新しい負担が生じるのか

デジタル化の効果は全住民に均等ではなく、手続の種類、年齢、障害、言語、家族状況によって大きく変わる。

時間と距離の制約がある人には効果が大きい

会社員が住所変更のために休暇を取る。乳幼児を連れた保護者が待合室で順番を待つ。家族を介護する人が短い空き時間に申請する。こうした場面では、24時間使えるオンライン手続の効果は明確だ。

引越しでは、マイナポータルから転出届と転入先への来庁予定連絡ができる。引越し手続オンラインサービスは、移動元の自治体へ出向く負担を減らす具体例である。ただし、転入後に必要な確認まで一律に消えるわけではない。オンライン化の範囲を住民へ正確に示さなければ、「ネットで終わったと思ったのに、結局来庁が必要だった」という不満を生む。

「インターネットを使える」と「行政申請を完了できる」は違う

総務省の通信利用動向調査を基にした令和6年版情報通信白書では、13~69歳の各年齢層でインターネット利用率が9割を超える一方、70歳以降は年齢が上がるほど低下する傾向が示されている。また、利用者の約7割がネット利用に何らかの不安を感じ、個人情報や利用履歴の漏えいを挙げた人が89.4%だった。

人口構成も無視できない。総務省統計局によれば、2025年9月15日現在の65歳以上人口は3,619万人で、総人口の29.4%を占める。高齢者人口の統計を見ると、行政が「オンラインを使えない人は少数」と扱える状況ではないことが分かる。

しかも、困難は年齢だけでは決まらない。

  • 視覚、聴覚、認知、上肢などに障害がある
  • スマートフォンは使えても、電子証明書や暗証番号の管理が難しい
  • 日本語の制度用語や申請文を理解しにくい
  • 家族や支援者による代理申請が必要である
  • 通信環境、端末、メールアドレス、決済手段を用意できない
  • DVや虐待、生活困窮など、画面上の定型質問だけでは扱いにくい事情がある

デジタル庁は2025年に、行政官や事業者向けのウェブアクセシビリティ導入ガイドブックを公表した。読み上げ順序や操作性への配慮は重要だが、画面を改善するだけで、相談や代理手続の必要性までなくなるわけではない。

ここがポイント: オンライン申請を増やすことと、対面支援を減らすことは別の政策判断である。利用件数だけを見て窓口を縮小すると、支援が必要な人ほど遠い窓口へ集約され、待ち時間や移動負担が増えるおそれがある。

本当に減らすべきなのは窓口の人数ではなく、手続の重複

財政効果を出すには、受付画面を作るだけでなく、添付書類、審査、庁内照会、通知まで組み直す必要がある。

紙の申請をそのままウェブ画面へ移し、職員が受信データを印刷して別システムへ入力するなら、住民の来庁は減っても自治体の事務はあまり軽くならない。オンライン用と窓口用で別々の運用が残れば、むしろ保守、問い合わせ、職員研修の費用が増えることもある。

行政DXで先に削るべきものは次の通りだ。

  • 同じ氏名、住所、世帯情報を何度も書かせること
  • 行政が保有する情報を住民に証明書として取り直させること
  • 申請内容を複数システムへ転記すること
  • 申請後の進捗が分からず、電話確認が集中すること
  • 部署ごとに予約、本人確認、決済、通知の仕組みを重複して持つこと

2026年7月21日に閣議決定されたデジタル社会の実現に向けた重点計画は、国・地方のデジタル共通基盤や、提案型の行政サービスを重点に掲げる。共通化には、自治体ごとの開発・保守の重複を減らす利点がある。

ただし、共通システムへ移せば自動的に安くなるわけではない。既存システムからの移行費、データ整備、職員研修、障害時の代替手段、住民への支援を含めて総費用を比較する必要がある。国の標準仕様と、自治体固有の条例・運用が噛み合わなければ、現場に手作業が残るからだ。

窓口縮小を急ぐと、別の場所へコストが移る

窓口を減らして帳簿上の費用が下がっても、住民、家族、地域の支援者へ負担を移しただけなら、公共サービス全体の効率化とはいえない。

住民側の「見えない費用」が増える

近くの支所がなくなれば、住民は交通費と移動時間を負担する。オンライン申請を家族に頼めば、暗証番号や個人情報を共有せざるを得ない場合もある。入力を代行する家族、ケアマネジャー、福祉職員などの時間は、自治体の決算には現れにくい。

特に地方では、窓口の集約と公共交通の縮小が重なると影響が大きい。行政施設の配置は単独で判断せず、移動手段、巡回相談、郵便局など地域拠点との連携を合わせて設計すべきだ。

対面相談には「制度につなぐ」機能がある

住民が自分に必要な制度名を知っているとは限らない。税、国民健康保険、介護、障害福祉、生活困窮は、一つの世帯で同時に問題になることがある。

窓口職員が事情を聞き、別の給付や減免を案内する機能は、申請書の受付件数だけでは測れない。申請率の低い制度ほど、検索してたどり着ける人だけを前提にすると支援漏れが起きる。将来的な「提案型行政サービス」を実現するにしても、本人の同意、データの正確性、誤案内への救済を整えなければならない。

現実的な答えは「デジタル優先、対面保障」

原則はオンラインを便利にしつつ、必要な人には予約不要の相談、電話、郵送、支援付き申請を残すことだ。 すべての窓口を従来の規模で維持するという意味ではない。

限られた職員を有効に使うには、定型手続をセルフサービスへ移し、窓口の役割を「紙を受け取る場所」から「問題を解決する場所」へ変える必要がある。具体策は次のようになる。

1. オンライン利用者を増やす

  • スマートフォンだけで申請から通知まで完結させる
  • 途中保存、入力例、必要書類の事前案内を用意する
  • 来庁が残る場合は、その理由と一度で済む条件を示す
  • 障害のある人も利用できるアクセシビリティを確保する

2. 窓口では職員がデジタルを使う

  • 本人確認済みの情報を読み込み、住民の記入を減らす
  • 複数課の手続を一か所で案内する
  • オンライン申請に失敗した人を、その場で完了まで支援する
  • 通訳、手話、筆談、やさしい日本語、代理手続の導線を整える

3. 庁舎外にも支援地点を置く

デジタル庁は、機器やサービスに不慣れな人を支えるデジタル推進委員の取組を2022年度に始め、自治体や団体と連携している。こうした支援を、単発のスマホ教室で終わらせず、実際の行政手続を完了できる相談へつなぐことが重要だ。

一方で、支援者にどこまで操作を任せられるか、暗証番号や個人情報をどう守るかは明確にしなければならない。善意の家族やボランティアへ責任を曖昧に預ける設計は避けるべきである。

賛成論と反対論を分けるのではなく、条件を比べる

争点はデジタル化への賛否ではなく、どの条件なら利便性と持続可能性を両立できるかにある。

オンライン化を急ぐ立場には、人口減少で自治体職員の確保が難しくなる以上、定型業務を省力化しなければ行政サービス自体を維持できないという現実的な根拠がある。内閣官房のデジタル行財政改革会議も、急激な人口減少への対応として、限られた担い手による公共サービスの維持・強化を掲げている。

反対側の懸念も具体的だ。オンライン利用率が高い手続だけを基準に窓口を整理すると、件数は少なくても対応時間の長い相談が残る。高齢者が多い地域、交通手段が乏しい地域、外国人住民が増えている地域では、全国一律の基準が合わない。

したがって、窓口の再編には少なくとも次の条件が必要になる。

  • 手続ごとのオンライン完了率を確認する
  • 申請開始率ではなく、途中離脱や差し戻しを測る
  • 年齢、障害、言語、地域別に利用格差を確認する
  • 窓口の待ち時間だけでなく、相談後の解決率を測る
  • システム障害時にも申請期限を守れる代替手段を用意する
  • 窓口縮小後の交通費、訪問支援、電話対応を含む総費用を比較する

今後の注目点は「利用率」より「完了率」と「救済」

行政DXの評価指標を、オンラインで受け付けた件数だけにしてはいけない。 住民が迷わず完了できたか、必要な制度へつながったか、誤処理を直せたかまで追う必要がある。

今後、自治体と国が公表すべき指標は明確だ。

  • オンライン申請の開始件数、完了件数、離脱率、差し戻し率
  • 窓口・電話・オンライン別の処理時間と住民負担
  • 年齢層や地域別の利用状況
  • 障害や言語への対応状況
  • システム停止時間と代替受付の実績
  • 窓口再編後の苦情、申請漏れ、支援制度への接続状況

デジタル化によって、開庁時間と居住地に縛られない行政サービスは実現できる。しかし、その便益を窓口削減の数字だけで回収しようとすれば、最も支援を必要とする住民へ負担が集中する。

先に減らすべきなのは、来庁者ではない。重複入力、添付書類、庁内転記、たらい回しである。窓口を縮小する判断は、オンライン完了率と支援付き手続の受け皿が確認できた後でなければならない。 次に各自治体の計画を見るときは、「何件オンライン化したか」ではなく、「オンラインで終えられなかった人を、どこで誰が支えるのか」を確認したい。

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