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水道料金はどこまで上がるのか――値上げの前に問うべき「更新費」と地域再編

住宅地で老朽化した水道管を点検する作業員。

水道料金はどこまで上がるのか――値上げの前に問うべき「更新費」と地域再編

水道料金の値上げは、全国一律に避けられないわけではありません。ただし、老朽管の更新費まで含めた収支が赤字になる地域では、施設の縮小・広域連携・業務効率化を尽くしても不足する分を、料金で負担する議論は避けにくいのが現実です。

重要なのは、料金を据え置けるかどうかだけではありません。安く見せるために更新を先送りすれば、漏水や断水の危険と、さらに重い将来負担を住民に残します。問うべきは「値上げか反対か」ではなく、必要な更新を見極め、削減できる費用を削った後の負担額かどうかです。

この記事で押さえる点は次の4つです。

  • 40年を超えた水道管は、2023年度時点で全国の25.3%に達した
  • 同年度の管路更新率は0.61%で、老朽化の進行に追いついていない
  • 人口が減っても、管路や浄水場の維持費は同じ割合では減らない
  • 値上げの前に、施設の縮小、統廃合、広域連携、優先順位の明示が必要になる
目次

老朽化は更新の速度を上回っている

結論から言えば、現在の更新ペースを続けるだけでは、古くなる水道管を十分に置き換えられません。

国土交通省が2026年の全国水道主管課長会議で示した資料によると、2023年度時点の水道管路は全国で約74万6,000キロあります。このうち法定耐用年数の40年を超えた管路は約18万9,000キロ、全体の25.3%です。

一方、同年度に更新された管路は4,547キロで、更新率は0.61%でした。国土交通省の資料は、古い管路を今後20年間で解消し、管路を60年で更新する想定なら、年1.27%、約9,450キロの更新が必要だとしています。実績は、その半分にも届きません。

ここで注意したいのは、「40年を超えたら直ちに破裂する」という意味ではないことです。法定耐用年数は会計・更新計画上の重要な目安ですが、実際の劣化は管の材質、地盤、腐食環境、施工状態によって異なります。

だからこそ、年数だけで一律に交換するのではなく、漏水履歴や重要度を調べて順番を決める必要があります。しかし、調査を精密にすれば更新そのものが不要になるわけではありません。

耐震化も同時に進めなければならない

更新工事には、古い管を新しくするだけでなく、地震時にも給水を続けられる構造へ変える役割があります。

2022年度末時点で、基幹的な水道管のうち耐震性がある管路の割合は42.3%、浄水施設の耐震化率は43.4%でした。厚生労働省の公表資料が「依然として低い」と評価した水準です。

病院、避難所、福祉施設へ水を運ぶ管路が止まれば、生活用水だけでなく医療や衛生にも影響します。水道の更新費は、単なる設備修繕費ではなく、地域の災害対応力を維持する費用でもあります。

人口が減るほど一人当たりの負担が重くなる理由

人口減少下の水道で厳しいのは、利用者が減っても固定費がすぐには減らないことです。

住民が1割減ったからといって、管路をその場で1割撤去することはできません。集落が点在する地域では、少ない利用者のために長い管路、配水池、ポンプを維持し続ける必要があります。浄水場の運転、水質検査、修繕、災害対応の要員も欠かせません。

その結果、次の二つが同時に進みます。

  • 給水人口や使用量の減少により、料金収入が減る
  • 老朽施設の更新、資材、人件費、電力などの支出が増える

国土交通白書2025も、高度経済成長期の1970年代に集中的に整備された施設の老朽化、耐震化の遅れ、人口減少による料金収入の減少を水道事業の課題に挙げています。特に小規模事業者は、利用者数と職員数の両方が少なく、更新投資を平準化しにくい状況です。

節水は家計に有利でも、経営には別の作用をする

節水型のトイレや洗濯機は、家庭の使用量を減らします。水資源やエネルギーの節約にもなります。

ただし、水道事業の費用の多くが固定的である以上、販売する水量だけが減れば収入不足が広がります。その不足を従量料金だけで補おうとすると、単価を引き上げる必要が生じます。

このため、今後は基本料金と従量料金の割合も論点になります。基本料金を厚くすれば収入は安定しますが、使用量が少ない単身者や高齢世帯にも一定の負担がかかります。従量料金を厚くすれば節水への動機は保てる一方、人口減少時の収入は不安定になりやすくなります。

ここがポイント: 人口減少で水の使用量は減っても、地域に張り巡らされた管路の維持費は同じ速さでは減りません。値上げを抑えるには、料金だけでなく施設の規模と配置を変える必要があります。

値上げ前に実行すべき四つの対策

料金改定に説得力を持たせるには、自治体が「いくら足りないか」だけでなく、「何を減らし、何を残すか」を示さなければなりません。

1.更新する管路に優先順位を付ける

すべての管を同時に更新することはできません。漏水リスクに加え、断水した場合の影響が大きい管路を先に扱う必要があります。

優先度が高いのは、例えば次のような区間です。

  • 病院、避難所、行政拠点へ給水する基幹管路
  • 代替ルートがなく、破損時に広範囲の断水を招く管路
  • 地震時の被害が想定される区域の非耐震管
  • 漏水や破損を繰り返している区間

反対に、利用者が少なく代替手段を確保できる区域では、同じ仕様で管路を更新することが最適とは限りません。給水車、小規模分散型の設備、運搬給水などを含め、地域ごとに方法を検討する余地があります。

2.将来人口に合わせて施設を小さくする

過去の最大人口を前提に造られた浄水場や配水池を、そのままの規模で更新すれば、使わない能力にも費用を払い続けます。

国の試算では、浄水場の縮小や統廃合によって、管路以外の施設の更新費を30年間で17~33%削減できる可能性が示されています。管路も口径を縮小すれば、更新費を6~13%削減できるとの結果です。2024年度全国水道主管課長会議資料にある全国試算であり、各地域にそのまま当てはまる数字ではありませんが、料金改定と施設再編を一体で考える必要性を示しています。

ただし、単純に小さくすればよいわけでもありません。災害時の余力、消防用水、観光期の需要、工場立地などを考慮しなければ、必要な供給能力まで失います。

3.市町村の境界を越えて共同化する

水は市町村ごとに閉じて流れているわけではありません。それでも、料金、職員、設備、発注は自治体単位で分かれている地域が多くあります。

広域連携には複数の段階があります。

  • 水質検査、料金収納、資材調達を共同化する
  • 技術職員や災害対応チームを共同で確保する
  • 浄水場や水源を共有し、重複施設を減らす
  • 複数事業を経営統合し、投資と料金を一体化する

共同化だけなら地域ごとの料金を残せます。一方、経営統合まで進めれば人材や資金を融通しやすくなりますが、料金統一の過程で「なぜ自分の地域が他地域の更新費を負担するのか」という反発も生じます。

広域化は万能の値下げ策ではありません。長い連絡管の新設が必要なら、当初の投資はむしろ増えます。それでも、技術者不足への対応や災害時の相互支援まで含めれば、長期的な選択肢として検討する価値があります。

4.DXと官民連携は目的を限定して使う

人工衛星やAIによる漏水検知、スマートメーター、遠隔監視は、点検や検針の負担を減らす可能性があります。国土交通省の上下水道DX資料も、担い手減少、物価上昇、人口減少を背景に技術導入を進めています。

ただし、DXは老朽管を新品に変えるものではありません。導入費や通信費も必要です。官民連携についても、民間へ委ねれば更新費が消えるわけではなく、契約管理や責任分担が新たな仕事になります。

導入の判断基準は明確です。

  • どの業務時間をどれだけ減らせるか
  • 漏水の早期発見で、どの費用を防げるか
  • 小規模事業者でも保守を継続できるか
  • 災害時や契約終了時に自治体が機能を維持できるか

水道料金は何の費用を負担しているのか

適正な料金とは、現在の蛇口から出る水の費用だけでなく、次の世代も給水を受けられるよう施設を維持する費用を含む料金です。

水道法の料金原則では、能率的な経営の下での適正な原価に照らし、健全な経営を確保できる公正妥当な料金であることが求められています。国土交通省の法改正資料は、健全な経営について、老朽施設の維持、修繕、更新を計画的に行い、継続してサービスを提供できる状態だと説明しています。

つまり、単年度の現金収支が黒字でも安心はできません。更新すべき管を交換せずに支出を抑えれば、帳簿上は黒字でもインフラの状態は悪化します。

住民が確認すべき数字

料金改定案が示されたときは、改定率だけでなく次の資料を見る必要があります。

  • 10年、20年、30年先の給水人口と水需要
  • 管路経年化率、更新率、耐震適合率
  • 更新対象と優先順位、年間の工事量
  • 施設の統廃合や縮小による削減額
  • 職員数、委託費、動力費の見通し
  • 借入金、内部留保、国庫補助、一般会計負担の内訳
  • 改定しない場合に先送りされる工事とリスク

国土交通省は、事業者別に料金回収や耐震化などを確認できる「水道カルテ」を公表しています。全国平均だけでは、自分の地域の管路条件や財政状況は分かりません。自治体の経営戦略、予算、料金改定資料と組み合わせて読むことが重要です。

税金で補えば料金を上げずに済むのか

税投入は必要な場面がありますが、料金問題を消す方法ではありません。

災害復旧、耐震化、高料金地域への支援など、国や一般会計が負担する合理性のある事業はあります。水道には公衆衛生や防災という公共的な役割があり、すべてを個々の使用量だけで割り切れないためです。

しかし、一般会計からの恒常的な補填は、住民税など別の形で地域住民が負担します。水道を多く使う事業者と、ほとんど使わない住民との負担関係も見えにくくなります。自治体財政が厳しい地域では、福祉、教育、道路などとの予算競争も起こります。

現実的には、費用の性質を分けるべきです。

  • 日常の給水や通常更新は、料金を基本に負担する
  • 政策的に維持する過疎地域や災害対策は、公費負担の範囲を明示する
  • 低所得世帯への配慮は、料金全体を不自然に低く抑えるのではなく、減免など対象を絞った支援を検討する

一律の料金据え置きは、使用量の多い世帯や企業にも同じ恩恵を与えます。生活保障が目的なら、支援対象を明確にした方が限られた財源を有効に使えます。

値上げへの反対論にも合理的な部分がある

値上げへの慎重論は、単なる負担拒否として片づけるべきではありません。計画の妥当性を点検する役割があります。

特に確認が必要なのは、次の三点です。

過大な施設をそのまま更新していないか

人口が減るのに同じ能力の施設を造り直せば、将来の利用者へ余分な負担を残します。需要予測に工場進出や観光需要を織り込む場合も、その根拠を示す必要があります。

更新費の見積もりが極端でないか

安すぎる見積もりは工事の先送りにつながり、高すぎる見積もりは過大な料金改定を招きます。資材価格や人件費の上昇を反映しつつ、工事量を現実に施工できるかまで確認しなければなりません。

値上げ後の使途を追跡できるか

料金を上げても、更新率や耐震化率が改善しなければ目的は達成されません。改定時に目標を置き、毎年度の実績を公表する仕組みが必要です。

反対に、「行政の無駄をなくせば値上げは不要」と一括りにするのも現実的ではありません。人員削減が進みすぎた事業者では、設計、発注、監督、災害対応を担う技術者そのものが不足しています。職員を減らすことが、長期的には委託費や事故リスクを増やす場合もあります。

料金改定は小刻みに検証する方がよい

大幅な値上げを長期間先送りするより、投資計画と料金を定期的に見直す方が、家計にも事業経営にも予測可能性があります。

水道料金については、更新費を含む収支見通しを公表し、おおむね3~5年ごとに検討する考え方が示されています。上下水道政策の基本的なあり方検討会の第2次とりまとめも、短期的な収支均衡ではなく、更新率の引き上げと人材確保を含む長期の投資・経営計画を求めています。

定期見直しには、二つの意味があります。

一つは、必要な更新費を早めに料金へ反映し、急激な改定を避けること。もう一つは、人口予測、工事費、広域化の効果が想定と違った場合に修正することです。

料金改定は一度決めたら終わりではありません。住民側も、次回の見直し時期と検証指標まで確認する必要があります。

今後の焦点は「値上げ幅」より更新計画の中身

水道料金の上昇圧力は強まっています。しかし、全国一律の改定率や、「将来は必ず何倍になる」といった数字だけで各地域の結論を出すことはできません。人口密度、水源、地形、管路延長、施設の状態、過去の料金水準が違うからです。

事実として言えるのは、老朽化が更新を上回り、人口減少で一人当たりの固定費負担が重くなっていることです。政策判断として必要なのは、次の順番です。

  1. 管路と施設の状態を調べ、止められない機能を決める
  2. 将来人口に合わせて、施設を縮小・統廃合する
  3. 広域連携、共同発注、DXなどで費用と人材不足を補う
  4. 公費で負担する政策部分を明示する
  5. それでも残る不足額を料金へ反映し、低所得世帯には対象を絞って配慮する
  6. 値上げ後に更新率と耐震化率が改善したかを公表する

避けるべきなのは、値上げそのものより、安い料金を守るために更新を見えない場所へ先送りすることです。 次に自治体から料金改定案が出たときは、改定率だけでなく、20年後に残す管路、廃止する施設、年間更新量、次回の検証時期が具体的に書かれているかを確認したいところです。

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