再エネを増やすだけでは電気は安くならない――送電網投資と料金負担の現実
送電網の増強が必要なのは、北海道や東北などの再エネ適地でつくった電気を、大都市や工業地帯まで運ぶためだ。地域間で電気を融通しやすくなれば、再エネの出力制御や火力燃料の消費を減らし、災害時の供給力も補いやすくなる。
ただし、送電網を増強すれば直ちに電気料金が下がるわけではない。建設費は託送料金や再エネ賦課金などを通じて回収されるため、先に負担が発生する。その投資に見合う燃料費削減や価格安定効果を得られるかが、政策評価の中心になる。
この記事で分かること
- 再エネ拡大に送電網が必要な理由
- 送電網の建設費が電気料金に反映される仕組み
- 再エネ賦課金と送電網整備費の違い
- 家計負担を抑えながら整備を進める条件
送電網が足りないと、発電できても使えない
発電設備と電力需要の場所が離れていることが、日本の大きな制約だ。
太陽光や風力は、日射や風況、土地、海域などの条件に左右される。北海道や東北には風力発電の適地が多い一方、電力を大量に使う首都圏とは距離がある。発電所だけを増やしても、地域間連系線や地域内の基幹送電線が細ければ、電気を需要地へ運び切れない。
送電網の容量が不足すると、主に三つの問題が起きる。
- 再エネが発電できる時間でも、出力を抑える必要が生じる
- 別の地域では、火力発電を動かして需要を満たす場面が残る
- 災害や発電所の停止時に、他地域から電気を融通できる量が限られる
資源エネルギー庁によると、再エネの出力制御は2018年10月に九州本土で初めて実施され、その後、北海道、東北、中部、北陸、関西、中国、四国、沖縄にも広がった。電気は需要と供給を常に一致させる必要があるため、地域内で使い切れず、他地域にも送れない電力は抑制せざるを得ない。
出力制御そのものは、電力系統を安全に運用するために必要な手段だ。問題は、安価な電源を活用できるはずの時間に制御が繰り返され、別の場所で燃料費のかかる発電を続ける状態である。
政府が送電網整備を急ぐ背景
再エネ比率と電力需要を同時に引き上げる政策には、発電所だけでなく「運ぶ設備」が欠かせない。
2025年2月18日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、2040年度の発電電力量を1.1兆~1.2兆kWh程度、電源構成に占める再エネを4~5割程度と見込む。2023年度の太陽光比率9.8%を、2040年度には23~29%程度へ高める見通しも示された。
一方、データセンターや半導体工場の新増設、製造工程の電化によって、電力需要は増加へ転じると見込まれている。需要が増える場所と、新しい発電所を建てやすい場所が一致するとは限らない。
全国規模で先回りする「マスタープラン」
電力広域的運営推進機関(OCCTO)は2023年3月、2050年のカーボンニュートラルを見据えた「広域系統長期方針」を策定した。個別の発電事業者から接続申請が来るたびに送電線を増強するのではなく、将来の電源配置と需要を想定して、地域間連系線などを計画的に整備する考え方である。
対象には、北海道・東北・東京間を結ぶ東地域の連系線や、東京・中部間、中部・関西間、中国・九州間などが含まれる。これらは再エネ専用線ではない。需給逼迫や災害が起きた際に、地域をまたいで供給力を融通する役割も持つ。
ここがポイント: 送電網増強の便益は「再エネを増やせること」だけではない。安い電源を広域で使うこと、燃料輸入を抑えること、地域的な電力不足に備えることを一体で評価する必要がある。
電気料金は短期的に上がるのか
建設費の回収だけを見れば料金の押し上げ要因だが、電気料金全体への効果は一方向ではない。
家庭が支払う電気料金には、発電・調達費、送配電網を使うための託送料金、再エネ賦課金などが含まれる。電力・ガス取引監視等委員会の説明では、託送料金は電気料金の約30%を占め、送電線、配電線、変電所の建設・保守や需給調整などに使われる。
送電網投資は、まず次の経路で負担になる。
- 一般送配電事業者が行う設備投資は、国の審査を経て託送料金から回収される
- 広域系統整備のうち再エネの導入による便益に対応する一部は、再エネ賦課金を原資とする仕組みで全国負担となる
- 2024年4月に始まった発電側課金により、発電事業者も送配電設備の維持・拡充費用の一部を負担する
発電事業者が負担した費用も、最終的には売電価格へ反映される可能性がある。したがって、「発電側に負担させれば家計には影響しない」とは言い切れない。
再エネ賦課金とは分けて考える
再エネ賦課金の中心は、FIT・FIP制度に基づく再エネ電気の買取費用等から、再エネによって節約できる燃料費などを差し引いた費用である。送電網の費用だけを示す料金ではない。
2026年度の賦課金単価は1kWh当たり4.18円。月400kWhを使う世帯の目安は月1,672円、年2万64円で、2026年5月検針分から2027年4月検針分まで適用される。
この金額をそのまま「送電網増強の負担」と見るのは誤りだ。2026年度の買取費用等は4兆8,507億円、そこから差し引く回避可能費用等は1兆6,495億円と想定されており、賦課金は既存の高い買取価格を含む複数の要素で決まる。
送電網が料金を下げる三つの経路
投資効果が出るのは、送電容量を実際に使い、より高い費用を減らせたときだ。
1. 燃料費の高い発電を減らす
日中にある地域で太陽光発電が余り、別の地域で火力発電を動かしているなら、連系線を通じて電気を運ぶことで火力燃料の消費を減らせる。日本は化石燃料の多くを輸入しているため、これは電気料金だけでなく、貿易収支とエネルギー安全保障にも関わる。
ただし、天候に左右される再エネだけで安定供給を担えるわけではない。蓄電池、揚水発電、需要を動かすデマンドレスポンス、調整可能な火力や原子力などを組み合わせなければ、系統全体の費用は下がらない。
2. 地域間の価格差を縮める
地域間連系線が混雑すると、電気が余る地域では卸価格が下がり、足りない地域では上がりやすくなる。連系線を増強すれば、安い地域から高い地域へ送れる量が増え、価格差を縮小できる。
効果は常に同じではない。燃料価格、天候、原発の稼働状況、需要の位置によって変わる。送電網は安値を保証する設備ではなく、より安い電源を選べる範囲を広げる設備である。
3. 出力制御による損失を抑える
再エネ設備を建てても発電を止める時間が多ければ、設備費を回収できる電力量が減る。事業者はそのリスクを投資判断や入札価格に織り込むため、長期的には再エネの調達費を押し上げかねない。
送電網の増強で出力制御を完全になくす必要はない。まれな発電ピークに合わせて巨大な設備を造れば、利用率の低い送電線の費用を需要家が負担することになる。一定の出力制御を認め、蓄電池や需要移行と比較しながら、総費用が最も低い組み合わせを選ぶべきだ。
国益と地域への影響
送電網はエネルギー安全保障と産業立地を支える一方、建設地域だけに負担を集中させては進まない。
燃料輸入への依存を下げる
国内の太陽光、風力、水力、地熱を広域で利用できれば、海外から購入する石炭、LNG、石油の価格変動や供給途絶への耐性が高まる。再エネには設備や重要鉱物の海外依存という別の課題があるものの、運転時に燃料を継続輸入しなくてよい点は国益上重要だ。
産業が求める電力を届ける
半導体工場やデータセンターは大量の電気を継続して必要とする。発電余力があっても、接続地点まで送配電設備が整っていなければ立地できない。送電網整備の遅れは、脱炭素電力を求める企業の国内投資を制約する可能性がある。
地域には工事と設備の負担が生じる
送電線のルートでは、用地取得、景観、森林伐採、漁業、海底ケーブル工事などの調整が必要になる。便益を全国が受ける一方、工事の影響は特定地域に集中しやすい。
国と事業者には、次の対応が求められる。
- ルート選定と費用見通しを早い段階で示す
- 地域住民、自治体、漁業者、土地所有者との協議を形式化しない
- 工事後の維持管理、災害対応、撤去まで説明する
- 全国的な便益がある設備は、立地地域だけに費用を負わせない
批判的に見るべき五つの論点
必要性を認めることと、すべての計画を無条件に認めることは別である。
需要予測が外れたときの負担
データセンターや工場の計画が延期・中止されれば、先行整備した送電設備の利用率が下がる。反対に、整備を待ち過ぎれば投資を呼び込めない。需要家から接続保証金を求めることや、工事を段階化することなど、予測外れのリスクを分担する仕組みが必要だ。
資材・人材不足による建設費の上振れ
大型変圧器、海底ケーブル、電線、施工船、技術者は世界的に需要が高い。計画時の費用便益が良くても、建設費や工期が膨らめば結果は変わる。国の審査では、着工時だけでなく完成後の費用と便益も検証すべきである。
新設偏重になっていないか
送電線を造る前に、既存設備の運用容量を実態に近づける「日本版コネクト&マネージ」、蓄電池、揚水、需要移行を検討する余地がある。送電網、蓄電池、出力制御は代替関係にあり、地域と時間帯によって最適解は異なる。
負担と受益が対応しているか
送電網の便益には、卸価格の低下、CO2排出削減、供給信頼度の向上などがある。しかし、料金を負担する全世帯が同じだけ恩恵を受けるわけではない。低所得世帯ほど光熱費の比重が大きいため、負担軽減策は一律補助より、対象を絞った給付や省エネ支援の方が効率的な場合がある。
費用の見える化が十分か
再エネ賦課金、託送料金、発電側課金が別々に存在すると、需要家は何にいくら払っているのか判断しにくい。少なくとも、主要プロジェクトごとに次の情報を継続公開する必要がある。
- 当初予算と最新の総事業費
- 運用開始予定と工事の進捗
- 想定した送電量と実績
- 出力制御、燃料費、地域間価格差の削減効果
- 料金への年間影響額
「送電線を増やせば解決」ではない
現実的な政策は、送電網と他の手段を費用で比較する。
送電網増強に慎重な立場からは、人口減少や省エネが進むなかで過大設備になる、蓄電池や地産地消を優先すべきだ、という反論がある。これは無視できない。特に、短時間だけ発生する余剰電力への対策では、送電線の新設より蓄電池や需要移行が安い場合がある。
一方、地域内ですべての需給を完結させる方式にも限界がある。大都市の需要を都市内の再エネだけで賄うことは難しく、長期間の悪天候や大規模災害への備えには地域間融通が有効だ。
判断基準は「送電か蓄電か」という二択ではない。
- 数時間の余剰には、蓄電池や需要移行
- 季節・地域をまたぐ偏りには、地域間連系線
- ごく短い発電ピークには、限定的な出力制御
- 局地的な需要増には、需要地周辺の送配電網増強
- 安定供給には、調整力を持つ電源と広域運用
この組み合わせを、設備の寿命全体にわたる総費用で比較する必要がある。
今後確認すべきポイント
見るべきなのは設備の完成本数ではなく、家計と産業にどれだけの便益を返したかだ。
今後の政策評価では、次の点が焦点になる。
- 第7次エネルギー基本計画の再エネ4~5割に対応する具体的な系統整備工程
- 北海道・東北から本州への連系設備など、大型計画の費用と工期
- 2027年度までの第1規制期間後に行われるレベニューキャップ制度の検証
- 出力制御量と地域間価格差が、系統増強後にどれだけ減ったか
- 資材価格や金利上昇を含む事業費の変化
- 託送料金と再エネ賦課金を合わせた家計負担
まとめ
送電網の増強は、再エネ適地と需要地を結び、出力制御、燃料輸入、地域的な供給不足を減らすために必要だ。2040年度に再エネ比率4~5割を目指し、電力需要の増加にも対応するなら、既存網の運用改善だけでは足りない区間が出てくる。
しかし、建設費は消えない。料金への影響を抑えるには、送電線を造ること自体を目的にせず、蓄電池、需要移行、限定的な出力制御と比較し、便益が費用を上回る計画だけを進めなければならない。
家計にとって重要なのは、「再エネが増えたか」だけではない。託送料金と賦課金を含む総額がどう変わり、その負担と引き換えに燃料費、停電リスク、出力制御がどれだけ減ったのか。その実績をプロジェクトごとに検証できる情報公開が、次の焦点となる。
参照リンク
- 資源エネルギー庁「エネルギー基本計画について」
- 資源エネルギー庁「大幅な拡大をめざす再生可能エネルギー」
- 資源エネルギー庁「エネルギー基本計画最新版を読みとく(後編)」
- 資源エネルギー庁「エネルギー白書2025・再生可能エネルギー」
- 資源エネルギー庁「エネルギー白書2024・次世代電力ネットワークの形成」
- 電力広域的運営推進機関「広域系統長期方針の策定について」
- 電力広域的運営推進機関「広域系統長期方針・整備計画の策定」
- 電力・ガス取引監視等委員会「託送料金とレベニューキャップ制度」
- 電力・ガス取引監視等委員会「発電側課金制度」
- 経済産業省「2026年度の再エネ賦課金単価」
- 資源エネルギー庁「FIT・FIP制度と再エネ賦課金」
