高校生の扶養控除は当面維持へ 家計への影響と次の税制論議を整理する
高校生年代の子どもを扶養する親の控除は、少なくとも令和9年分の所得税と令和10年度分の個人住民税では現行制度が維持されます。現時点で、控除縮小による増税が決まったわけではありません。
ただし、見直し論そのものが撤回されたわけでもありません。児童手当や高校無償化を広げる一方、所得に応じて効果が大きくなる扶養控除をどこまで残すのか。今後も「給付と控除を合わせた子育て支援」の設計が争点になります。
この記事で押さえたい点は次の4つです。
- 16~18歳の扶養控除は、所得税38万円・個人住民税33万円が現行水準
- 令和8年度税制改正では、直近の適用分について現行制度の維持が示された
- 過去に示された縮小案が実施されれば、親の所得税率によって家計への影響額が変わる
- 税額だけでなく、住民税額を基準にする自治体制度への波及も点検が必要
何が決まり、何が未決着なのか
結論からいえば、高校生の扶養控除は当面変わりませんが、その先の恒久制度は決まっていません。
現在、16歳以上19歳未満の扶養親族について、親は所得税で38万円、個人住民税で33万円の所得控除を受けられます。控除額がそのまま給付されるのではなく、親の課税所得から差し引かれる仕組みです。
財務省の令和8年度税制改正に関する説明では、次の適用分について現行制度を維持すると整理されています。
- 令和9年分の所得税
- 令和10年度分の個人住民税
一方で、人的控除全体については、児童手当、高校無償化、奨学金など歳出面の施策も含めて引き続き検討するとしています。したがって、「見直しは完全に消えた」と読むのも、「近く必ず縮小される」と受け取るのも正確ではありません。
ここがポイント: 現在の家計は控除縮小を前提に組む必要はありません。ただし、高校生への給付拡大と扶養控除の関係は、将来の税制改正で再び議論される可能性があります。
なぜ扶養控除の縮小が議論されたのか
出発点は、児童手当の対象が高校生年代まで広がったことです。
令和6年10月分から児童手当の所得制限が撤廃され、対象期間は「18歳に達した後、最初の3月31日まで」に延長されました。3歳以上の第1子・第2子は1人当たり月1万円、年間では12万円です。第3子以降は月3万円となります。
政府内では、15歳以下には扶養控除がない一方、高校生年代には児童手当と扶養控除の両方がある点をどう整理するかが課題になりました。
かつて示された案は「廃止」ではなく縮小
令和6年度税制改正大綱で示された方向性は、16~18歳の控除を次のように縮小する案でした。
- 所得税の扶養控除:38万円から25万円へ
- 個人住民税の扶養控除:33万円から12万円へ
これは控除の全廃ではありません。2010年度税制改正で、高校実質無償化に伴って廃止された上乗せ部分を復元し、その金額だけを残すという考え方でした。
政府側の理屈は、児童手当を高校生まで広げつつ、所得が高い人ほど節税効果が大きい所得控除を縮小し、所得階層間の支援を平準化するというものです。
ただし、高校生は通学費、教材費、部活動費、受験費用などが膨らむ時期でもあります。そのため、給付が増えたから控除を機械的に減らしてよいのかという反論が生じました。
仮に縮小案が実施されたら家計はいくら変わるか
影響は一律ではなく、親に適用される所得税率が高いほど大きくなります。
過去に示された案では、課税所得から差し引ける金額が所得税で13万円、個人住民税で21万円減ります。個人住民税の所得割を標準税率10%として単純計算すると、住民税の増加は年約2万1,000円です。
所得税を合わせた概算は次のようになります。
| 親の所得税率 | 所得税の増加 | 住民税の増加 | 合計の増加 |
|---|---|---|---|
| 5% | 約6,500円 | 約21,000円 | 約27,500円 |
| 10% | 約13,000円 | 約21,000円 | 約34,000円 |
| 20% | 約26,000円 | 約21,000円 | 約47,000円 |
| 23% | 約29,900円 | 約21,000円 | 約50,900円 |
| 33% | 約42,900円 | 約21,000円 | 約63,900円 |
この試算は、子ども1人分について復興特別所得税や個別の税額控除、自治体差などを除いた概算です。実際の負担は課税所得やほかの控除によって変わります。
高校生年代の第1子・第2子には児童手当が年12万円支給されるため、この縮小案だけを比べれば、多くの世帯で給付額が税負担増を上回ります。ただし、比較には注意が必要です。
- 児童手当は現金給付で、所得税を納めていない世帯にも届く
- 扶養控除の効果は納税額と税率によって異なる
- 高所得世帯は児童手当の所得制限撤廃による恩恵も受ける
- 第3子以降の月3万円は、多子加算の数え方を満たす場合に限られる
つまり、「全世帯が同じだけ得をする制度」ではありません。給付と税負担を世帯ごとに合算しなければ、生活への実際の効果は見えません。
税額以外に注意すべき生活への波及
扶養控除の変更で見落としやすいのは、所得税と住民税以外の制度です。
自治体や学校関連の支援には、住民税額、課税所得、課税・非課税の区分を判定基準に使うものがあります。控除縮小で算定上の所得や税額が増えると、制度によっては給付額や利用者負担に影響する可能性があります。
想定される確認対象には、次のようなものがあります。
- 自治体独自の就学・教育支援
- 医療費助成や福祉サービスの所得判定
- 保育・学童保育などの利用料区分
- 奨学金や授業料支援の所得要件
- 住民税非課税世帯を対象とする各種給付
令和6年度税制改正大綱も、扶養控除の見直しによって社会保障や教育給付で不利益が生じないよう、国の各府省と地方自治体が対応する必要を明記しました。
これは重要な論点です。税負担が年数万円増えるだけなら児童手当で補えても、別の給付から外れれば家計への影響は大きくなり得ます。制度改正を行うなら、国税だけでなく自治体制度まで含めた影響調査と経過措置が欠かせません。
控除維持にも反論はある
現行制度の維持は子育て世帯に安心を与えますが、政策上の弱点も残ります。
所得控除は高い税率の世帯ほど効果が大きい
同じ38万円の所得控除でも、税率5%の人と33%の人では所得税の軽減額が違います。所得控除は、教育費が重い低・中所得世帯に重点的に支援する仕組みではありません。
このため、扶養控除を縮小し、浮いた財源を一律給付や低所得層への給付に回す方が公平だという主張には一定の合理性があります。
控除縮小は「子育て増税」と受け取られやすい
一方、児童手当を拡充した直後に扶養控除を減らせば、支援策と負担増が別々に示され、家計には分かりにくく映ります。とくに高校生の教育費が増える時期に税負担を増やすことは、少子化対策のメッセージとも衝突します。
政策への信頼を保つには、少なくとも次の情報を同時に示す必要があります。
- 所得階層・子どもの人数別の給付と負担の純増減
- 国と地方の税収への影響
- 所得判定を使う関連制度の一覧
- 不利益を防ぐ経過措置
- 見直しで確保した財源の具体的な使途
現実的な選択肢は二択ではない
政策の選択肢は「控除を全部残す」か「児童手当があるから減らす」かだけではありません。
1. 現行の扶養控除を維持する
家計への追加負担を避けやすく、制度も分かりやすい選択です。ただし、所得控除による支援が高所得層ほど大きくなる問題は残ります。
2. 控除を縮小し、給付を重点化する
低・中所得世帯や教育費負担の大きい世帯へ財源を振り向けやすくなります。一方、対象の線引きによって新たな「所得の崖」が生まれない設計が必要です。
3. 所得控除を税額控除へ組み替える
所得から差し引くのではなく、算出した税額から一定額を引けば、税率による効果の差を小さくできます。ただし、納税額が少ない世帯にも支援を届けるには、控除しきれない分を給付する仕組みが必要です。税務と給付を接続する行政コストも無視できません。
4. 教育費への直接支援を厚くする
授業料だけでなく、教材、通学、端末、受験など実際に負担が生じる項目へ支援を寄せる方法です。必要性に沿いやすい反面、申請手続きが増えたり、対象外となる支出が生じたりします。
今後の税制改正で見るべき点
次の焦点は、控除額だけでなく、子育て政策全体の収支が公開されるかどうかです。
令和8年度税制改正では当面の維持が示されましたが、その後の扱いは引き続き検討事項です。今後の大綱や政府資料では、次を確認する必要があります。
- 現行維持の対象期間がさらに延長されるか
- 控除縮小案が再提示される場合、金額や実施時期が変わるか
- 児童手当、高校無償化、奨学金を含む世帯別の純負担が示されるか
- 自治体独自制度への影響調査が公表されるか
- 恒久的な財源と給付の優先順位が明記されるか
まとめ
事実として、高校生年代の扶養控除は直近の対象年について現行制度が維持されます。したがって、控除縮小がすでに決定したかのように家計負担を計算する必要はありません。
一方、児童手当の高校生年代への拡充によって、給付と扶養控除の重なりをどう整理するかという問題は残っています。所得再分配を重視するなら給付や税額控除への転換に理由があり、教育費の増える世帯を広く支えるなら現行控除の維持にも理由があります。
次の税制改正で見るべきなのは、控除を残すか減らすかという一行だけではありません。子どもの人数と世帯所得ごとの純負担、自治体給付への波及、確保した財源の行き先。この3点が数字で示されるかが、制度の妥当性を判断する分岐点になります。
