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「106万円の壁」撤廃と最低賃金1177円が10月に重なる――パートの手取りを分ける線は「週20時間」に移る

10月のカレンダーとシフト表、給与明細が並ぶパート従業員の休憩室の様子

「106万円の壁」撤廃と最低賃金1177円が10月に重なる――パートの手取りを分ける線は「週20時間」に移る

あす10月1日から、パートやアルバイトで働く人の社会保険のルールが変わります。厚生年金と健康保険に入るかどうかを決めていた「月額賃金8.8万円以上」、いわゆる「106万円の壁」の要件が撤廃されます。

同じ時期に、地域別最低賃金も全国加重平均で1,121円から1,177円へ、56円上がります。

結論を先に書きます。今回の変更で、パートの保険加入を分ける線は「年収いくらか」から「週に何時間働くか」へ移ります。従業員51人以上の職場では、週20時間以上働けば収入にかかわらず加入対象です。年収を105万円台に抑える調整はもう意味を持たず、代わりに「週20時間をまたぐかどうか」が家計と職場のシフト表を左右します。

この記事の要点

  • 10月1日、社会保険の賃金要件(月額8.8万円)が撤廃。従業員51人以上の職場で週20時間以上働く人は、収入にかかわらず加入対象になる
  • 最低賃金は全国平均1,177円(+56円)。10月1日から12月2日にかけて都道府県ごとに順次発効する
  • 保険料の急な手取り減を和らげる「保険料調整制度」も10月に始まる。事業主が多めに払った分は国などが支援する
  • 企業規模要件は2027年10月から段階的に縮小し、2035年10月には規模を問わず適用される。影響は来年以降も広がる
目次

10月1日に何が変わるのか

まず事実を整理します。変更の根拠は、2025年6月に成立した年金制度改正法と、それを受けた厚生年金保険法施行令などの政令改正です。

社会保険の加入要件

短時間労働者が厚生年金・健康保険に入る要件は、これまで次の組み合わせでした。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上(年収換算で約106万円)
  • 従業員51人以上の企業などに勤めている
  • 学生でない

10月1日から、このうち賃金要件がなくなります。週20時間、企業規模、学生除外の要件は残ります。

撤廃の理由として厚生労働省が挙げているのは、最低賃金の水準です。2026年4月以降、全都道府県で最低賃金が時給1,016円以上になり、週20時間働けば実質的に月8.8万円を超えるのが一般的になった、という判断です。

試しに計算すると、今回改定後で最も低い宮崎県の1,085円でも、週20時間・年52週で月あたり約9.4万円になります。賃金要件は、撤廃前からすでに形だけの線になりつつありました。

最低賃金の改定

項目内容
全国加重平均1,121円 → 1,177円(+56円)
最高額東京都 1,280円
最低額宮崎県 1,085円
引き上げ幅54円(東京・神奈川・大阪)〜65円(佐賀)
発効日2026年10月1日〜12月2日、都道府県ごとに順次

週40時間・年2,080時間働く人なら、56円の引き上げで年収は約11.6万円増えます。ただし発効日は県によって最大2か月ずれます。自分の県の発効日は、労働局の告示で確かめる必要があります。

制度の背景――なぜ「壁」を消すのか

背景にあるのは、働き控えと年金の先細りという二つの問題です。

「106万円の壁」を意識した人は、年末にシフトを減らして年収を抑えてきました。人手不足の小売や介護、外食の現場では、繁忙期に人が抜ける原因になってきました。

もう一つは老後の備えです。国民年金(基礎年金)だけの人は、将来の受給額が低くなりがちです。厚生年金に入れば、保険料は労使折半で、将来の年金は上乗せされます。

ここがポイント: 賃金要件の撤廃で「年収を抑えれば保険に入らずに済む」という逃げ道はなくなります。残る線引きは「週20時間」と「勤め先の規模」の二つで、そのうち規模の線も2035年までに消える予定です。

企業規模要件は段階的に縮小

今回の撤廃と並んで重要なのが、企業規模要件の縮小スケジュールです。

  • 現行:従業員51人以上
  • 2027年10月:36人以上
  • 2029年10月:21人以上
  • 2032年10月:11人以上
  • 2035年10月:すべての事業所

10月1日の時点で直接影響を受けるのは、主に51人以上の企業で週20時間以上、月8.8万円未満で働いていた人です。一方で、来年10月からは36〜50人の企業も対象に入ります。中小企業にとっての本番は、むしろ来年以降です。

暮らし・職場・財政への影響

ここからは、誰がどの場面で影響を受けるのかを分けて見ます。

働く人:手取りは減るが、保障は厚くなる

新たに加入する人は、健康保険と厚生年金の保険料を払うことになります。標準報酬月額8.8万円なら、本人負担は月およそ1万2,500円です。

その代わりに得られるものもあります。

  • 将来の厚生年金の上乗せ
  • 病気やけがで休んだときの傷病手当金
  • 出産時の出産手当金

配偶者の扶養に入っていた人は、自分で保険料を払う立場に変わります。目先の手取りだけを見ると損に見えますが、比べるべきは「月1.25万円の負担」と「老後と病気の保障」です。

保険料調整制度:3年間の激変緩和

手取りの急減を和らげるため、10月から「保険料調整制度」が始まります。日本年金機構の案内によると、仕組みは次の通りです。

  • 対象者:短時間労働者として加入し、標準報酬月額が12.6万円以下の人
  • 内容:事業主が本人の保険料を一時的に多く負担し、本人負担を通算3年間軽減する(3年目は軽減割合が半分)
  • 例:標準報酬月額8.8万円の場合、1・2年目は本人約6,250円・事業主約18,750円
  • 事業主が多く払った分は、国などが全額を支援する
  • 事業主が申出書を提出して初めて使える

注意したいのは、この制度が事業主の申し出を前提にしている点です。対象は、2026年10月1日以降に任意特定適用事業所になった従業員50人以下の事業所などとされています。9月30日以前からすでに任意特定適用事業所だった場合は対象外という解説もあります。自分の勤め先が使えるかどうかは、会社の担当者に確かめるしかありません。

職場と事業者:保険料負担とシフト管理

事業主は、新たに加入する人の保険料の半分を負担します。最低賃金の引き上げと重なるため、人件費は二重に増えます。

中小の小売・飲食・介護事業者にとっては、10月以降のシフト表をどう組むかが直接の判断になります。週19時間台に抑える運用を選ぶ職場が出てくる可能性はあります。

財政と社会保障:基盤の強化

国全体で見ると、厚生年金の加入者が増えれば、保険料収入が増え、将来の低年金者を減らすことにつながります。人口減少で働き手が細るなか、「働く人は原則として被用者保険に入る」方向に制度を寄せる改革です。

一方で、国などが保険料調整制度で負担する支援分の規模や財源については、利用がどこまで広がるかで変わります。

批判的に見るべき論点

改革の方向自体には一定の合理性があります。ただ、制度設計にはいくつか弱点があります。

「週20時間の壁」が新たに生まれる

年収の線が消えても、時間の線は残ります。週20時間を少し超える人が、保険料を避けるために19時間台へ減らす動きが出れば、人手不足の緩和という狙いは部分的にしか達成されません。

「130万円の壁」は残る

週20時間未満で働く人や、51人未満の企業で働く人にとっては、配偶者の扶養を外れる「130万円の壁」が引き続き意識されます。今回の改正は壁を一つ消しただけで、壁の体系全体を整理したわけではありません。

軽減措置が申し出頼み

保険料調整制度は、事業主が手続きをしなければ働く人に届きません。事務負担の重い小規模事業者ほど申し出が遅れる可能性があり、同じ賃金で働いても勤め先によって手取りが変わる状況が生まれます。

最低賃金の地域差と発効日のずれ

最低賃金の最高額と最低額の差は195円です。発効日も10月1日から12月2日まで分かれます。地方の中小企業ほど、賃上げと保険料負担が短期間に重なる構図です。

別の見方とトレードオフ

この改正には、立場によって評価が分かれる面があります。

立場主な主張現実的な制約
推進する見方働き控えを減らし、老後の年金と病気の保障を厚くする。最低賃金上昇で賃金要件は実質的に役目を終えていた時間要件が残る限り、調整行動は形を変えて続く
慎重な見方目先の手取り減で家計が苦しくなる。中小企業の人件費が二重に上がる軽減措置は3年間の時限で、恒久的な負担減ではない
制度の一本化を求める見方106万円・130万円・週20時間と線が複数あること自体が問題で、第3号被保険者制度を含めた全体の見直しが必要専業主婦世帯などへの影響が大きく、合意形成に時間がかかる

足元の賃金環境は、改正にとって追い風です。厚生労働省の毎月勤労統計によると、2026年7月の実質賃金は前年同月比2.4%増で、7か月連続のプラスでした。名目賃金は4.7%増です。賃金が物価を上回って伸びている局面なら、保険料負担を吸収しやすくなります。

ただし、これは一時点の数字です。物価の再上昇や景気の減速で実質賃金がマイナスに戻れば、「手取りが減った」という受け止めが強まり、働き控えが再燃する可能性があります。

海外の動き:米国の予算は12月11日まで延命

海外では、米国の連邦政府予算が9月30日で会計年度末を迎えました。米議会は9月1日、2026会計年度の水準で12月11日まで資金を手当てするつなぎ予算を成立させ、政府閉鎖は回避されています。

日本の家計に直結する話ではありません。ただ、11月の中間選挙を挟んで12月に再び予算の期限が来ます。米国の財政運営が揺れれば、為替や金利を通じて日本の物価と実質賃金に波及する経路はあります。年末に向けて見ておきたい外部要因の一つです。

今後の注目点

次に確かめるべき予定と資料を並べます。

  • 10月以降の最低賃金の順次発効:12月2日まで続く。地方の発効日が遅い県ほど、賃上げと保険料負担の時期がずれる
  • 保険料調整制度の利用状況:日本年金機構への申出がどれだけ出るか。対象事業所の範囲と支援規模
  • 毎月勤労統計の8月分以降:実質賃金のプラスが続くかどうか
  • 2027年10月の企業規模要件縮小(36人以上)への準備:中小企業の事務負担と人件費への対応
  • 「130万円の壁」や第3号被保険者制度の見直し議論:年金制度の次の改正に向けた審議会の動き

まとめ

事実として言えること

  • 10月1日、社会保険の月額8.8万円の賃金要件が撤廃される。週20時間以上・従業員51人以上の職場なら、収入にかかわらず加入対象になる
  • 最低賃金は全国平均1,177円に上がり、12月2日までに全都道府県で発効する
  • 激変緩和の保険料調整制度が始まるが、事業主の申し出が前提になる

見解として言えること

  • 最低賃金の上昇で、賃金要件はすでに実質的な意味を失いつつあった。撤廃は現実の追認という面が強い
  • 壁が一つ減っても、「週20時間」と「130万円」の線は残る。働き方の調整がなくなるとは言い切れない

働く人が今やること

  • 自分の週の所定労働時間が20時間以上かを雇用契約で確認する
  • 勤め先の従業員数(51人以上か)を確認する
  • 新たに加入する場合、保険料調整制度を会社が使うかどうかを担当者に聞く
  • 扶養に入っている場合は、配偶者の勤め先の家族手当の条件も合わせて確かめる

10月の給与明細で保険料の欄が増えた人は、手取りの減少だけでなく、将来の年金記録が積み上がり始めたことも確認しておくとよいでしょう。本当の試金石は、来年10月に36人以上の企業へ対象が広がる局面です。

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