1ドル157円台と日米財務相会談――10月に切れる電気・ガス補助、家計に効いてくるのはいつか
9月25日の夜9時すぎ、片山さつき財務相がベッセント米財務長官とオンラインで約20分話した。財務省の発表によれば、確認されたのは一点、「円の過小評価は問題だ」という認識である。この一報がニューヨーク市場に流れると、ドル円は1ドル=157円77銭から156円94銭まで下げた。
円安が日本側だけの悩みではなく、日米両政府が並んで口にする議題になった。ここが今回の肝心な変化だ。
ただし、為替の水準が動いても、家計に効く順番は別に決まっている。政府の電気・ガス料金支援は9月使用分(10月検針分)で終了する。値引きが消えたことが請求書の数字に出るのは、多くの家庭で11月に届く請求からだ。円高方向に少し振れたことと、光熱費が上がることは、同時に起きる。
この記事の要点
- 9月25日夜、日米の財務当局トップが円安を「問題」と位置づける認識を再確認した
- 日銀は9月18日に政策金利を1.25%へ、米FRBも9月17日に3.75〜4.00%へ引き上げ、金利差はほぼ縮まっていない
- 円安の底流にはホルムズ海峡の事実上の封鎖に伴う原油高があり、金融政策だけでは戻しにくい
- 電気・ガス支援は9月使用分で終了予定。ガソリンは定額引き下げが続き、財源は9月1日に予備費から積み増された
9月25日に何が起きたのか
会談の中身は短い。日米の協力強化を確認し、金融市場の動向について意見交換し、円の過小評価が問題だという点を再確認した——公表されているのはその程度だ。
それでも市場が反応したのは、直前の文脈があるからだ。9月22日の日米首脳会談で、トランプ大統領から円安が米国の貿易にとって厳しいという趣旨の発言があったことが伝えられている。ベッセント長官自身も25日、その首脳間の議論を踏まえて片山氏と協議したと明かした。
つまりこの電話は、単発の事務連絡ではない。首脳レベルで持ち出された為替の話を、財務当局の実務ラインに落とした一手と読むのが素直だ。為替介入があるかどうかは公表されておらず、ここは断定できない。市場が警戒したのは、介入の可否ではなく「日米で話がついている状態かどうか」だった。
利上げしても円安が止まらないのはなぜか
9月は日米の中央銀行が同じ週に動いた。だが、その結果として金利差はほとんど動いていない。
中央銀行は両方とも利上げした
日銀は9月17〜18日の金融政策決定会合で、政策金利を1.0%程度から1.25%程度へ引き上げた。1995年以来、31年ぶりの水準である。前回の利上げは6月会合で、3カ月間隔は2024年3月以降の利上げ局面で最短だ。原油高と円安を起点に、基調的な物価上昇率が2%目標を上回って上振れていくリスクへの警戒が背景にある。
一方、米FRBは9月17日に0.25%引き上げ、誘導目標を3.75〜4.00%とした。約3年ぶりの利上げで、7月会合では3人が反対票を投じていたのに対し、9月は全員が賛成に回っている。
日米そろって0.25%ずつ。差は2.5〜2.75%のまま残った。日銀が動いても、動いた分だけ米国も動けば、金利差要因の円安は解消しない。
底流にあるのはエネルギーの実需
もう一つの、そしてより根深い要因がエネルギーである。米国・イスラエルによるイラン攻撃への対抗として、イランがホルムズ海峡を事実上封鎖する状態が続いている。原油は9月10日時点で1バレル105ドルを超え、日本の原油輸入は大きく落ち込んだ。
原油を高い値段で、しかも代替ルートから調達すれば、その支払いはドル建てで膨らむ。輸入企業は実需としてドルを買い、円を売る。金融政策の思惑で動く投機の円売りと違い、これは止めようがない。
25日の市場でドル売りが優勢になったきっかけの一つが、米イランによる海峡再開協議の進展観測だったことも、この構図を裏返しに示している。円相場を動かしていたのは、金利よりも原油だったということだ。
ここがポイント: 円安の原因が金利差だけなら、利上げで対処できる。だが原油の実需が原因なら、利下げも利上げも介入も効きにくい。エネルギー調達の安定こそが、為替対策の本体になっている。
暮らし・財政・国益への影響
家計――値引きが消える時期を押さえる
いま家計に直接効いているのは、為替の数円ではなく、価格を抑える二つの補助である。
| 制度 | 支援の中身 | いまの扱い |
|---|---|---|
| 電気・ガス料金支援 | 電気(低圧)7月・9月使用分は3.5円/kWh、8月使用分は4.5円/kWh。都市ガスは14.0円/㎥、8月は18.0円/㎥。標準世帯で3カ月合計5,000円程度 | 9月使用分(10月検針分)で終了。10月以降の継続は決まっていない |
| 燃料油の定額引き下げ | 中東情勢を踏まえた緊急措置として週次で単価を設定。9月17〜30日出荷分は51円/L | 継続中。9月14日時点のレギュラー全国平均は169.9円/L |
読者にとっての実務上の要点は、効き方のズレだ。
- 電気・ガス:9月使用分までは値引きあり。値引きゼロの料金が反映されるのは10月使用分=11月の請求から
- 冬は使用量そのものが増える。単価の値引きが消えた状態で暖房シーズンに入る
- 自動車を使う世帯:ガソリンは補助が続いており、170円前後の水準が維持されている。ただし週次運用のため、単価は毎週変わりうる
- オール電化世帯や、都市ガスではなくLPガスを使う世帯は、支援の対象範囲と効き方が異なる
財政――どこから出ているお金なのか
これらの支援は恒久制度ではない。2026年度の補正予算は3兆円強の規模で、中東情勢等対応予備費の創設を含む予備費の積み増しが柱だった。燃料油の定額引き下げについては、9月1日の閣議決定で予備費から6,136億円が基金に積み増され、当面の財源が確保されている。
ここに構造的な問題がある。ガソリンの暫定税率は2025年12月31日に廃止され、軽油引取税の暫定税率も2026年4月1日に廃止された。減税で税収を減らした上に、補助で価格を抑えている。歳入と歳出の両側から財政を細らせる形で、当面の生活を守っているのが現状だ。
産業とエネルギー安全保障
原油高は家計より先に企業を直撃する。燃料費だけでなく、ナフサ由来の石油化学製品を使う製造業では原材料の確保が課題になる。政府は4月時点で、石油の安定供給は当面確保できるとの認識を示していた。ただし、供給が続くことと、価格が耐えられる水準に収まることは別の話である。
批判的に見るべき論点
政策の方向性そのものより、設計と順番に疑問が残る。
- 口先の限界:日米で認識を共有しても、原油の実需が続く限り相場の底流は変わらない。介入や当局者発言は時間を買う手段であって、原因の治療ではない
- 支援の切れ目:電気・ガス支援は需要が増える冬の直前で終わる。なぜ7〜9月に集中させ、冬に空白をつくる設計なのか、説明は十分とは言えない
- 予備費依存:予備費と基金の積み増しで回す方式は機動的だが、国会審議を通らない支出が増える。規模が大きくなるほど、財政民主主義の観点から問題が重くなる
- 減税と補助の二重取り:暫定税率を廃止した上に補助も続ける状態は、価格が下がらない限り終われない。出口の条件が明示されていない
- 優先順位:10月5日召集の臨時国会で焦点とされているのは消費税減税関連法案と衆院議員定数削減法案だ。エネルギー調達と光熱費の空白期間が、同じ熱量で議論されるかは見通せない
反対意見と、別の見方
補助の終了を一方的に批判するのも、実態に合わない。
- 補助金は価格シグナルをゆがめ、省エネや燃料転換の動機を弱める。恒久化すれば、原油高が続くほど財政負担が雪だるま式に増える
- 支援を薄く広く配ると、所得の高い世帯にも同額が届く。財源が限られるなら、低所得世帯への直接給付に絞るほうが効率的だという見方は根強い
- 日銀の利上げには、円安と輸入物価を抑える効果が期待される一方、住宅ローン金利や中小企業の借入コストを押し上げる。どちらの家計を守るのかというトレードオフが避けられない
- 為替の円安は、輸出企業や訪日消費には追い風でもある。「円安は悪」と単線で語ると、産業ごとの損得が見えなくなる
判断の軸は単純だ。一時的な価格抑制に使う財源と、エネルギー調達構造そのものを変える投資に使う財源の、配分をどうするか。前者だけを続ければ、封鎖が長引くほど財政が持たない。
今後の注目点
- 10月5日:臨時国会召集。政府提出法案は21本の方針で、消費税減税関連が中心。所信表明演説と各党代表質問で、光熱費支援の扱いが問われるかどうか
- 10月以降の電気・ガス:継続の可否と、実施するなら開始時期。決定が遅れるほど、冬の請求に空白が生じる
- 毎週の燃料油単価:資源エネルギー庁が公表する定額引き下げの単価と全国平均価格。170円前後が維持されるか
- 米イラン協議:ホルムズ海峡の再開条件。イラン側は覚書の完全履行を求めており、短期での全面再開は読みにくい
- 米中の通商日程:9月24日の米中首脳会談で関税休戦は2027年1月10日まで延長されたが、レアアースと半導体輸出規制は持ち越された。中国による米国産原油の輸入拡大が、日本の代替調達を圧迫する可能性が指摘されている
- 次の金融政策決定会合:物価上振れリスクへの警戒がどこまで続くか
まとめ
事実として言えること。9月25日夜、日米の財務当局トップが円の過小評価を問題として再確認し、ドル円は157円台から156円台に振れた。日銀は9月18日に政策金利を1.25%へ、FRBは9月17日に3.75〜4.00%へ、それぞれ引き上げた。電気・ガス料金支援は9月使用分で終了予定で、燃料油の定額引き下げは9月1日に積み増された6,136億円の財源で継続している。
見解として言えること。円安の主因が原油の実需にある以上、金融政策と為替の当局間協議で戻せる幅は限られる。当面の生活を守っているのは相場ではなく補助金であり、その補助金は予備費に依存している。
残る課題は具体的だ。冬の光熱費に空白をつくらない制度設計、予備費頼みから国会審議を経た予算への切り替え、そして「価格を抑える支出」と「調達構造を変える投資」の配分である。次に確かめるべきは、11月に届く請求書の金額と、それまでに政府が10月以降の支援を決めるかどうか。この二つが、今回の議論が言葉だけで終わったかどうかの答えになる。
参照リンク
- 片山財務相がベッセント長官と電話会談 日米協力強化を確認(NHK)
- 財務省「片山財務相は25日夜のベッセント米財務長官との電話会談で、円の過小評価は問題との認識確認」(ザイFX!)
- 日銀 利上げ決定 政策金利1.25%程度へと引き上げ(NHK)
- FOMC(2026年9月)――FRBは0.25%の利上げを決定、追加利上げの余地を残す(ゴールドオンライン)
- 電気・ガス料金支援(資源エネルギー庁)
- 中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置(資源エネルギー庁)
- 石油製品価格調査 調査の結果(資源エネルギー庁)
- ガソリンの暫定税率(当分の間税率)の廃止について(資源エネルギー庁)
- 臨時国会、10月5日召集=消費税・定数減が焦点(時事ドットコム)
- 令和8年度予算成立及び中東情勢への対応等についての会見(首相官邸)
- 電気・ガス代5000円支援 補正予算3兆円規模―高市首相表明(時事ドットコム)
- 【データで見る】ホルムズ海峡の状況(時事ドットコム)
- 米中首脳会談では貿易を巡る議論に注目(野村総合研究所・木内登英)
- 第2次高市改造内閣 閣僚等名簿(首相官邸)
