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自治体DXを分けるのは「技術」ではない――共同化でも埋まらない人材と運用の壁

自治体職員とデジタル専門人材が複数地域のシステム共同化を検討している様子。

自治体DXを分けるのは「技術」ではない――共同化でも埋まらない人材と運用の壁

自治体DXの格差を広げている最大の要因は、最新システムを買えるかどうかではありません。業務を見直し、事業者の提案を評価し、導入後も改善を続けられる人材と体制があるかです。

システムの標準化や共同調達は、小規模自治体の負担を軽くする有力な手段です。ただし、契約や運用をまとめるだけでは、意思決定の遅れ、現場との調整不足、特定事業者への依存まで自動的に解消されません。

この記事で押さえたい点は次の4つです。

  • 2026年3月末時点で、標準化対象3万4,366システムのうち1万13システム、29.1%が「特定移行支援システム」となった
  • 遅れの背景には自治体側だけでなく、移行を担う事業者のSE不足や開発日程の集中もある
  • 共同化は調達負担を減らせる一方、参加団体間の調整と発注能力を新たに必要とする
  • 格差を縮めるには、都道府県単位の人材プールと共同調達を、導入後の運用改善まで含む常設機能にする必要がある
目次

2026年度に持ち越された標準化が示す現実

全国一律の期限を設けても、自治体と事業者の実行能力までは一律になりません。

国は、住民記録、地方税、介護保険、国民健康保険、児童手当など20の基幹業務について、原則2025年度末までに標準準拠システムへ移行する方針を進めてきました。自治体ごとに異なる仕様や改修を減らし、職員と事業者の維持管理負担を軽くするのが狙いです。

しかし、デジタル庁が2026年6月30日に更新した資料では、2026年3月末時点の移行対象3万4,366システムのうち、1万13システムが「特定移行支援システム」に位置付けられました。全体の29.1%です。

特定移行支援システムとは、2026年度以降に移行せざるを得ないことが具体化したシステムを指します。主な事情は次の通りです。

  • メインフレームや自治体独自の個別開発システムを使っている
  • 現行事業者が標準準拠製品を開発せず、代替製品の調達も難しい
  • 移行作業と移行直後の運用に必要なSEを事業者が確保できない
  • データ移行や他システムとの連携が複雑で、日程の見直しが必要になった

国は対象ごとに期限を設定し、概ね5年以内の移行を支援する方針です。これは単なる失敗の認定ではありません。住民記録や税、福祉給付を扱うシステムは、期限に合わせるために安全性を犠牲にしてよいものではないからです。

一方、持ち越しが3割近くに達した事実は重いものです。自治体DXを「各団体が期限までに製品を入れ替える事業」と捉えるだけでは、全国同時移行に必要な技術者、調達支援、データ整理の能力を確保できないことが明らかになりました。

格差の正体は、発注前と導入後にある

同じ製品を導入しても、業務を変える力が違えば成果はそろいません。

自治体の情報部門は、庁内ネットワーク、端末、セキュリティ、住民向けサービス、各課のシステム調達などを少人数で支えている場合があります。基幹システムの標準化が加われば、現行データの確認、仕様差の整理、事業者との協議、職員研修まで同時に進めなければなりません。

「ITに詳しい人」だけでは足りない

必要なのはプログラムを書ける職員だけではありません。自治体DXでは、少なくとも次の役割が要ります。

  • 窓口や福祉、税務などの業務を理解し、不要な手順を見つける人
  • 製品、クラウド、ネットワーク、セキュリティを評価する人
  • 仕様書を作り、価格とサービス水準を比較して契約する人
  • 複数部署と首長部局、議会、事業者の合意をつなぐ人
  • 稼働後の利用状況や障害を確認し、改善を続ける人

大規模自治体は役割を分担しやすく、専門職の採用や外部委託にも選択肢があります。小規模自治体では一人が複数の役割を担いやすく、担当者の異動や退職で知識が失われる危険も大きくなります。

民間人材を採用すればすべて解決するわけでもありません。行政の予算編成、個人情報保護、条例、調達手続、各業務の繁忙期を理解しなければ、技術的に正しい提案でも現場に定着しないためです。

ベンダー不足も全国共通の制約になった

標準化の遅れを自治体の準備不足だけで説明するのは正確ではありません。デジタル庁は、特定移行支援システムが生じた主因として、移行時と移行直後に想定以上のSEが必要になり、事業者が日程を大幅に見直したことを挙げています。

標準化では全国の自治体が似た時期に移行作業を発注します。供給できる技術者が急に増えない以上、需要が集中すれば、小規模な契約や複雑な旧システムほど後回しになるおそれがあります。

つまり格差は、自治体の財政力だけでなく、次の条件が重なって生まれます。

  • 庁内に業務と技術を橋渡しできる職員がいるか
  • 早い段階でデータや独自運用を整理できたか
  • 対応可能な事業者と契約を結べるか
  • 周辺自治体や都道府県と支援体制を組めるか
  • 稼働後の運用費と改善費を予算化できるか

システム共同化は何を解決できるのか

共同化の価値は、単なる割り勘ではなく、希少な人材と交渉力を地域で共有できる点にあります。

複数自治体が同じシステムを共同調達すれば、各市町村が別々に仕様書を作り、審査し、契約する重複を減らせます。運用監視やセキュリティ対応、職員研修をまとめる余地も生まれます。

小規模自治体にとって期待できる効果は明確です。

  • 専門人材を単独で常時雇用する負担を減らせる
  • 共通の仕様書や評価基準を利用できる
  • 障害や制度改正への対応知識を参加団体で共有できる
  • 一自治体では弱い価格交渉力を補える
  • 担当者の異動があっても、地域内に知識を残しやすい

総務省が2025年に示した資料では、都道府県と市町村によるDX推進体制について、2024年度末時点で必要な4機能をそろえた都道府県は32団体でした。個別要件を見ると、市町村支援のために一定の専門人材を確保した都道府県は38団体、共同調達などの取組テーマを設定した都道府県は45団体です。

国は2025年度中に全都道府県で連携体制を構築し、市町村支援のための人材プール機能を確保する方針を掲げました。「自治体DXアクセラレータ」の任命、アドバイザー派遣、常勤人材の人件費に対する地方交付税措置なども、そのための手段です。

ここがポイント: 共同化で本当に共有すべきなのはサーバーだけではありません。業務分析、調達、セキュリティ、契約管理、導入後の改善を担う人材を地域の共通資源にできるかが成否を分けます。

共同化しても格差が残る三つの理由

参加団体を束ねる仕組みが弱ければ、共同化そのものが新しい調整負担になります。

1. 業務の違いを誰が整理するのか

標準仕様があっても、窓口の役割分担、帳票、庁内決裁、外部機関との連携まで完全に同じになるわけではありません。参加自治体が従来の運用をすべて残そうとすれば、共通部分が小さくなり、個別対応が再び増えます。

必要なのは、各自治体の要望をそのまま足し合わせることではありません。「法令上必要な差」「地域事情から残す差」「慣行にすぎない差」を分け、共通化できる業務を決める作業です。この判断には、現場業務と制度の双方を理解する人が要ります。

2. 責任の所在が曖昧になりやすい

共同調達では、障害時の連絡、仕様変更の決定、追加費用の分担、自治体ごとの優先順位を事前に決めておく必要があります。代表自治体に実務が集中し、他団体が判断を任せきりにすれば、代表側の負担だけが膨らみます。

反対に、すべてを全会一致で決める設計では、小さな改修にも時間がかかります。共同化には、製品選定以前にガバナンスの設計が必要です。

3. 既に安い仕組みを持つ自治体には逆効果もある

共同化やガバメントクラウドへの移行が、すべての自治体で直ちに費用削減につながるとは限りません。デジタル庁も、地域ベンダーを介した自治体クラウドなどで既に共同化し、費用を抑えていた団体では、移行後に費用増が見込まれる場合があると説明しています。

2025年の政府資料には、中核市市長会の調査として、移行後の運用経費の見積もりが平均2.3倍、5割以上の自治体で2倍以上、最大5.7倍になったとの要望が収録されています。ただし、これは中核市側の調査と要望に基づく数字であり、全自治体の確定実績ではありません。

政府は費用増の要因として、次のような点を整理しています。

  • ガバメントクラウドへの接続回線や運用支援という新しい費用
  • 移行対象と対象外のシステムが併存する間の二重管理
  • 期限優先でクラウド向けの最適化が十分に進まなかったこと
  • 高度なクラウド技術者を確保するための人件費
  • 物価、賃金、為替など外部環境の変化
  • 移行期に現行事業者への依存が残り、競争が働きにくかったこと

共同化は重要ですが、既存費用との比較、将来のデータ移行、契約終了時の乗り換え条件まで確認しなければ、長期的な負担軽減にはつながりません。

住民生活には「見えない運用力」が響く

自治体DXの格差は、最終的に手続きの速さ、災害時の復旧、給付の正確さとして住民に表れます。

基幹システムは、税の計算、保険料、児童手当、介護認定など生活に直結する事務を支えています。標準化とクラウド活用が安定すれば、制度改正への対応を効率化し、災害時の復旧力やセキュリティを高められる可能性があります。

ただし、システムを入れ替えただけで職員の作業が減るとは限りません。旧来の確認手順や紙の決裁を残せば、画面入力と紙処理が二重になります。操作しにくい部分を改善する体制がなければ、職員の残業や委託費が増え、そのしわ寄せが住民対応に及びます。

影響が特に大きいのは、次のような場面です。

  • 制度改正後に給付や保険料を正しく反映する場面
  • 転居に伴い複数の行政手続きを連携させる場面
  • 災害や障害から住民情報システムを復旧する場面
  • 高齢者や障害者など、手続きに個別支援が必要な住民へ対応する場面
  • 人口減少下でも支所や小規模自治体のサービスを維持する場面

国益という観点でも、自治体の基幹システムは重要インフラです。地域ごとにセキュリティや復旧能力が大きく違えば、攻撃者は弱い部分を狙えます。標準化には最低水準を底上げする意義がありますが、設定、監視、権限管理、職員教育を担う人がいなければ、その効果は十分に発揮されません。

現実的な処方箋は「人材の共同化」から始まる

単独採用が難しい自治体には、都道府県単位の常設チームを提供する方が現実的です。

短期派遣の専門家は、課題の整理や計画づくりには役立ちます。しかし、調達から移行、稼働後の改善まで数年かかる案件では、助言だけでなく継続して責任を持つ体制が必要です。

都道府県の人材プールを実働組織にする

人材プールには、名簿を作るだけでなく、役割別のチームが必要です。

  • 業務改革とサービス設計
  • 調達、契約、費用比較
  • クラウド構成とセキュリティ
  • データ移行と品質確認
  • プロジェクト管理
  • 稼働後の利用分析と改善

複数市町村を巡回する職員に明確なキャリアを用意し、地場事業者やシビックテックの知見も取り込めれば、地域内に経験を蓄積できます。外部委託を使う場合も、自治体側に提案を評価できる中核人材を残すことが欠かせません。

共同調達を段階化する

全業務を一度に統合すると、調整が重くなります。まず共通性が高い領域から始め、成果を確認して範囲を広げる方が安全です。

  1. 現状の業務、費用、契約、データを共通様式で可視化する
  2. 共同化できる業務と、自治体ごとに残す業務を分ける
  3. 共通の評価基準とサービス水準を決める
  4. 少数の業務や団体で運用し、障害対応と費用を検証する
  5. 稼働後の実績を公開し、次の調達条件に反映する

共同化の参加判断では、初期費用の安さだけでなく、5年から10年の総費用、制度改正費、データ持ち出し条件、事業者変更の難易度を比較する必要があります。

成果を「導入済み」で測らない

システムの導入件数だけでは、住民や職員が得た効果を測れません。国と自治体は、少なくとも次の指標を継続して確認すべきです。

  • 手続き一件当たりの職員作業時間
  • 住民が入力・提出する項目や書類の数
  • 障害の発生回数と復旧時間
  • 制度改正への対応日数と追加費用
  • システム全体の運用費と職員負担
  • 共同調達後の事業者数と乗り換え可能性

別の見方――自治体ごとの工夫を失わないか

標準化への慎重論には根拠がありますが、標準化と地域独自の政策は分けて考えるべきです。

自治体ごとの独自仕様には、地域の事情を反映したものもあります。全国共通の仕組みに寄せすぎれば、現場で使いにくくなる、制度変更が全体に波及する、共通基盤への障害や攻撃の影響が広がる、といった懸念があります。

一方、住民記録の管理や税計算の基礎まで各自治体が別々に作り続けることは、人口と技術者が減る社会では持続しにくくなります。現実的な分担は次の通りです。

  • 法令に基づく基幹処理、データ形式、セキュリティ最低基準は共通化する
  • 地域独自の支援策や住民との接点は、自治体が工夫できる余地を残す
  • 共通部分と独自部分の接続仕様を明確にし、特定事業者への固定を避ける
  • 共通基盤には障害の分離、バックアップ、復旧訓練を組み込む

「すべて共通」か「すべて自治体独自」かの二択ではありません。どこまでを共同で守り、どこからを地域の判断に委ねるかが政策設計の核心です。

これから確認すべき五つの数字

2026年度以降は、移行件数よりも運用実績を追う段階に入ります。

今後の注目点は次の通りです。

  • 特定移行支援システム1万13件の移行計画と、件数が今後どう減るか
  • 都道府県の人材プールが、何人・何職種で何市町村を継続支援しているか
  • 移行前後の運用経費を同じ条件で比べた検証結果
  • 共同調達後も複数事業者が競争でき、データを移行できる契約になっているか
  • 障害復旧時間、職員作業時間、住民の手続き負担が実際に改善したか

標準化と共同化は、自治体DXの格差を縮めるための土台です。しかし、土台の上で調達し、運用し、改善する人がいなければ、格差は形を変えて残ります。

次に見るべきなのは「どの自治体が導入を終えたか」だけではありません。都道府県が市町村を支える常設チームを持ち、その支援が稼働後の費用と住民サービスを改善したかです。ここまで確認できて初めて、共同化は人口減少時代の行政基盤になります。

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