敬老の日に合わせて総務省統計局が9月20日に公表した推計で、65歳以上の人口は3624万人となり、2年ぶりに増加に転じた。総人口に占める割合は29.6%で過去最高。ただ、この数字よりも政策的に重いのは、その隣に並んだもう一つの数字のほうだ。
65歳以上の就業者は943万人。22年連続で増え、就業者全体の13.8%を占める。働く人の7人に1人が高齢者という構成になっている。
日本は年金の受給開始年齢を引き上げないまま、高齢者が働き続けることで制度の帳尻を合わせる道を選んできた。2026年4月に在職老齢年金の基準額が大きく引き上げられたのも、その延長線上にある。以下では、この選択が誰の生活のどこに効くのかを見ていく。
この記事の要点
- 65歳以上人口は3624万人(2026年9月15日現在の推計)、割合は29.6%で過去最高
- 高齢者の就業者は943万人、就業者総数の13.8%。65〜69歳の就業率は54.5%と半数超
- 2026年4月から在職老齢年金の支給停止調整額が引き上げられ、令和8年度は65万円
- 一方で給付と負担の本丸は動いておらず、厚労省の令和9年度概算要求は36兆5803億円と過去最大
何が公表されたのか:9月に出そろった3つの数字
今月、高齢化に関する公的な数字が相次いで出た。いずれも一次推計や住民基本台帳に基づくもので、政策判断の前提になる。
| 公表 | 内容 | 数値 |
|---|---|---|
| 9月20日・総務省統計局 | 65歳以上人口(9月15日現在の推計) | 3624万人(前年比+2万人、2年ぶり増)/総人口の29.6%で過去最高 |
| 同上 | 2025年の高齢者就業者数 | 943万人(22年連続増)/就業者総数の13.8% |
| 9月15日・厚生労働省 | 100歳以上の高齢者 | 10万7677人(前年比+7914人)で初の10万人超、56年連続増 |
就業率を年齢層別に見ると、65〜69歳が54.5%、70〜74歳が36.2%、75歳以上が12.6%。70代前半でも3人に1人以上が働いているという水準は、制度が想定してきた「引退後の高齢者」像とかなりずれている。
100歳以上の内訳は男性1万3379人、女性9万4298人で、女性が87.6%を占める。国内最高齢は京都市の岸本ふよさん(114歳)、男性は熊本市の加藤光さん(112歳)。長寿そのものは成果だが、年金・医療・介護の給付期間が長くなることを同時に意味する。
人口4000万人以上の39か国で比べると、65歳以上の割合は日本が最も高い。つまり日本の対応は、どこかの国の先例をなぞる段階を過ぎている。
なぜ「支え手」に回ったのか:制度が後押ししてきた
高齢者の就業増は、本人の意欲だけで説明できない。年金の受給開始をめぐる制度設計と、企業に課された雇用義務が、そろって働き続ける方向に効いている。
在職老齢年金の基準額引き上げ
在職老齢年金は、厚生年金に加入して働く人の給与(総報酬月額相当額)と老齢厚生年金の基本月額の合計が基準額を超えると、超過分の半分に相当する年金が止まる仕組みだ。この「働くと年金が減る」構造が就労抑制につながると長く批判されてきた。
2025年6月成立の年金制度改正法で法定額が48万円から62万円に引き上げられ、賃金スライドを反映した令和8年度の適用額は65万円。厚労省が2026年1月23日に公表した年金額改定で確定した。同時に年金額は国民年金1.9%、厚生年金2.0%の引き上げとなっている。
- 月収と年金の合計が51万円超〜65万円以下だった層は、働き方を変えなくても支給停止が外れる
- 役員報酬を抑えて年金を確保する、といった調整の必要性が下がる
- 一方で、基準額を超えるほど稼ぐ層は全体では少数で、恩恵は高所得の高齢被保険者に偏る
受給開始年齢は据え置いたまま
もう一つの柱が高年齢者雇用安定法だ。65歳までの雇用確保が義務、70歳までの就業確保が努力義務という枠組みで、定年延長や継続雇用が広がった。政府は支給開始年齢の一律引き上げには踏み込まず、繰下げ受給の選択肢拡大と就労環境の整備で対応してきた。
ここがポイント: 日本は「受給開始年齢を上げる」のではなく「働ける期間を延ばし、働いても年金が減りにくくする」方向を選んだ。負担を正面から論じずに済む半面、健康と仕事がある人にしか効かない。
暮らしにどう効くのか
影響の出方は立場によってはっきり分かれる。
- 65歳以降も厚生年金に加入して働く人: 支給停止の対象から外れる人が出る。給与水準が同じでも手取りが増える場合がある
- すでに引退し年金だけで暮らす人: 在職老齢年金の見直しの効果はない。受け取る額は改定率と物価の動き次第
- 企業の人事・総務: 65歳以上の社員の報酬設計、社会保険の説明、定年後再雇用の条件見直しが実務課題になる
- 自治体と医療・介護の現場: 100歳以上が10万人を超えた地域では、訪問介護や見守りの担い手確保が先に限界に来る
- 現役世代: 高齢者が働いて保険料を払う側に回る分、支え手の比率は見かけ上改善するが、保険料率や窓口負担の議論が消えるわけではない
75歳以上の就業率が12.6%という数字は、裏返せば8割以上が労働市場の外にいるということでもある。就労による下支えには、年齢とともに確実に天井がある。
批判的に見るべき論点
財源は先送りされていない
厚生労働省の令和9年度概算要求は一般会計36兆5803億円で、令和8年度当初予算の35兆433億円から1兆5370億円増えた。高齢化に伴う自然増が要求を押し上げる構図は変わっていない。就業者が増えても、給付と負担の見直しを避けられるわけではない。
効果の偏り
- 在職老齢年金の緩和が届くのは、65歳以降も厚生年金の適用事業所で相応の報酬を得ている層
- 非正規・短時間で働く高齢者や、健康上の理由で働けない層には直接の恩恵がない
- 地方では、そもそも高齢者向けの求人が限られる地域がある
「働けるうちは働く」の限界
健康寿命は延びているが、個人差は大きい。就労を前提に制度を組み立てるほど、働けなくなった時点での落差が大きくなる。介護離職や老老介護の負担が、統計上の「就業者数」には現れない点にも注意がいる。
別の選択肢:フランスは止め、ドイツは進める
同じ高齢化圧力に対して、欧州の対応は割れている。
フランス政府は2025年10月、2026年の社会保障予算案に年金改革の停止を明記する修正書簡を閣議決定した。1964年・1965年生まれの退職年齢を62歳9カ月で固定し、2028年1月まで据え置く内容で、保険加入期間も170四半期で止まる。改革の中断は、政治的な安定と引き換えに財政負担の先送りを選んだ判断だ。
ドイツは逆方向に進む。受給開始年齢の67歳への段階的引き上げは2026年以降も続き、1960年生まれは66歳4カ月。法定年金の保険料率は18.6%(労使折半)で据え置かれている。
この比較は日本にそのまま当てはまらない。ただ、受給開始年齢に手を付けない日本は、制度の持続性を就労率と賃金の伸びに賭けているという構図がはっきりする。賃金が伸びなければ、この賭けの分は将来の保険料か給付削減に回ってくる。
今後の注目点
- 12月下旬に閣議決定される令和9年度予算政府案で、社会保障関係費の自然増がどこまで圧縮されるか
- 令和9年度の年金額改定(例年1月下旬公表)と、在職老齢年金の支給停止調整額が賃金スライドでどう動くか
- 2027年4月施行の育成就労制度。育成就労計画の認定申請は2026年9月1日に受付が始まっており、介護・建設など人手不足分野の実際の受け入れ規模が見えてくる
- 高齢者就業が統計上どこで頭打ちになるか。65〜69歳の就業率は5割を超えており、伸びしろは70代以降に移る
まとめ
事実として言えること。65歳以上人口は3624万人で割合は29.6%、高齢者の就業者は943万人で就業者の13.8%。100歳以上は初めて10万人を超えた。2026年4月から在職老齢年金の支給停止調整額は引き上げられ、令和8年度は65万円になっている。
見解として言えること。日本は受給開始年齢の引き上げを避け、就労継続と支給停止の緩和で支えるやり方を選んだ。フランスの改革停止、ドイツの67歳化と並べると、この選択の特徴と危うさが見える。
課題として残ること。緩和の恩恵は厚生年金に加入して相応に稼ぐ高齢者に偏り、働けない層には届かない。社会保障関係費の要求は過去最大を更新し続けている。次の判断材料は、12月の予算政府案と年明けの年金額改定だ。数字が出てから慌てないために、自分の年金と給与の合計が新しい基準額のどちら側にあるかは、いま確認しておく価値がある。
参照リンク
- 高齢者人口2年ぶり増の3624万人、働く人は最多943万人 総務省推計(日本経済新聞)
- 統計トピックス「統計からみた我が国の高齢者」(総務省統計局)
- 100歳以上が初の10万人超え 女性が87%、最高齢は京都の114歳(日本経済新聞)
- 在職老齢年金の計算方法(日本年金機構)
- 令和8年度の年金額改定と支給停止調整額(社会保険労務士PSRネットワーク)
- 令和9年度厚生労働省所管予算概算要求関係(厚生労働省)
- フランス政府、年金改革停止を修正書簡で明記(ジェトロ)
- 2026年の労働分野における制度変更(ドイツ)(労働政策研究・研修機構)
- 外国人材の育成就労制度、27年4月から 政府閣議決定(日本経済新聞)
