過去最大143.1兆円の概算要求――「積極財政」で本当に見るべき3つの数字
政府の2027年度(令和9年度)一般会計概算要求は、約143.1兆円となりました。ただし、この金額がそのまま来年度予算になるわけではありません。
本当に見るべきなのは、年末の査定で何を残すのか、投資の成果をどう測るのか、国債発行をどこまで抑えるのかです。家計への影響も、143.1兆円という見出しより、社会保障や物価対策に回る額と金利の動きによって決まります。
- 一般会計の要求額は約143.1兆円
- 新設の「強く豊かな日本」投資枠は、特別会計分を含め約14.2兆円
- 補正予算に頼ってきた恒常的な政策を、当初予算へ移す方針
- 最大の焦点は、事業の選別と通年の国債発行額
何が公表されたのか
財務省は2026年9月4日、各省庁から提出された2027年度予算の概算要求を公表しました。一般会計の要求・要望額などを合計すると、約143.1兆円です。
2026年度当初予算の122.3兆円を大きく上回りますが、単純比較には注意が必要です。
政府は今回、短期間で編成する補正予算への依存を減らし、毎年続ける施策を当初予算に計上する方針を掲げました。片山さつき財務相は、比較対象として2025年度補正予算と2026年度当初予算の合計約141兆円を挙げ、今回との差は約2.5兆円だと説明しています。
つまり、増額の一部は予算を計上する時期の変更です。一方で、計上時期を変えただけで支出の必要性が証明されるわけではありません。最終的な予算額と政策効果は、年末までの査定で決まります。
新しい投資枠は何に使われるのか
今回の特徴は、通常歳出とは別に「強く豊かな日本」投資枠を設けたことです。
一般会計での要求額は約12.2兆円。GX、AI・半導体に関するエネルギー対策特別会計分を加えると、約14.2兆円になります。
対象として想定されているのは、国内投資を通じて供給力や稼ぐ力を高める政策です。財務省は、次の条件を査定の着眼点に挙げています。
- 誰が、いつまでに、何を実施するのか
- 民間投資をどれだけ呼び込めるのか
- 支援対象の技術や事業に収益化の道筋があるか
- 進捗と成果を継続的に確認できるか
- 成果が乏しい場合に見直せる仕組みがあるか
この枠には要求上限が設けられていません。だからこそ、「重要分野」という看板だけで採択せず、民間企業による自己投資との線引きや、既存の補助事業との重複を確認する必要があります。
ここがポイント: 投資枠の評価基準は予算額の大きさではありません。半導体の国内供給力、エネルギーの安定供給、民間投資、雇用、生産性など、期限を区切って確認できる成果が必要です。
暮らしへの影響は二つの経路で表れる
概算要求は役所の数字に見えますが、家計には「サービス」と「金利」の両側から影響します。
社会保障や公共サービスの維持
概算要求基準では、年金・医療などの経費について、高齢化による自然増として0.39兆円を見込んでいます。さらに、賃金や物価の上昇を予算編成へ反映する方針です。
病院、介護事業所、自治体、公共工事の現場では、人件費や資材費が上がっています。予算額を据え置けば、制度上は同じサービスでも、人員や事業量を減らさざるを得ない場合があります。物価を反映した増額には、公共サービスの実質的な縮小を防ぐ意味があります。
ただし、支出を増やすだけでは不十分です。利用者の待ち時間、職員配置、事業の完了時期など、現場で改善したかを測らなければなりません。
国債費と住宅ローン
もう一つの経路は金利です。片山財務相は、金利上昇により住宅ローンや企業借入の利払いが増える一方、家計の利子収入が増える面もあると説明しました。
政府にとっては国債の利払い負担が重くなります。財政制度等審議会の2025年資料では、金利が想定より1%高い状態で推移するとの機械的な試算で、利払費が2025年度の10.5兆円から2034年度には34.4兆円へ増える姿が示されました。これは予測ではありませんが、金利上昇が時間差で予算を圧迫する仕組みを示しています。
利払いに回る額が増えれば、子育て、防災、インフラ更新、防衛といった政策に使える余地は狭くなります。財政の信認は市場だけの問題ではなく、将来の公共サービスを守る条件でもあります。
国益の観点では「投資」と「固定費」を分ける必要がある
半導体、AI、GX、防災、国土強靱化への支出は、供給網の寸断や災害への備えという点で国益に直結します。民間だけでは負担しにくい初期投資を政府が支える合理性もあります。
一方、投資事業には、採択後に恒常的な補助金へ変わる危険があります。国が支援を続けなければ成立しない事業は、経済安全保障上の必要性と費用を明示して判断すべきです。
特に確認したいのは次の三点です。
- 国内の供給能力や技術基盤が実際に増えるか
- 特定企業への支援が、取引先や地域雇用へ広がるか
- 補助終了後も事業が自立できるか
安全保障上必要だから無条件で支出する、財政が厳しいから一律に削る、という二択ではありません。必要性を認めたうえで、達成期限と撤退条件を設けるのが現実的です。
批判的に見るべき論点
今回の概算要求には、査定前の「事項要求」も含まれています。金額が未確定の政策があるため、143.1兆円だけでは最終的な支出規模を判断できません。
「補正から当初へ」で透明性は高まるか
恒常的な施策を当初予算に移せば、国会や財政当局が内容を検討する時間を確保しやすくなります。災害や急激な景気悪化に対応する補正予算と、毎年続ける政策を分ける考え方は妥当です。
ただし、当初予算へ移した施策を自動的に継続すれば、歳出が固定化します。事業ごとの終了時期、利用実績、達成度を公開し、不要になった支出を止める仕組みが欠かせません。
財源は年末まで残る争点
政府は補助金、租税特別措置、基金を見直し、特別会計などから税外収入を確保する方針です。しかし、それだけで新規支出を恒久的に賄えるとは限りません。
一時的な基金返納を、毎年発生する給付や人件費の財源に充てれば、翌年度以降に穴が開きます。恒常的な歳出には、恒常的な歳入か、既存支出の削減を対応させる必要があります。
別の見方――総額の増加だけで緊縮を求める危うさ
予算の増加をすべて財政規律の後退と見るのも適切ではありません。
物価や賃金が上がれば、同じ行政サービスを維持するだけでも名目支出は増えます。老朽インフラの更新や供給網の強化を先送りすれば、事故や輸入途絶が起きた際の負担はさらに大きくなります。
判断軸は「増えたか、減ったか」ではなく、次の組み合わせです。
- 支出によって国内の供給力が増えるか
- 将来の維持費まで含めて負担可能か
- 民間資金を呼び込み、税収基盤を広げられるか
- より効果の低い既存事業を廃止できるか
積極財政を持続させるには、増やす政策だけでなく、止める政策を具体的に示す必要があります。
今後は年末の「査定結果」を見る
概算要求は予算編成の出発点です。今後の注目点は、金額の大小よりも選別の中身にあります。
- 約14.2兆円の投資枠が、どの事業へ配分されるか
- 成果指標、実施期限、見直し条件が設定されるか
- 補助金、基金、租税特別措置をどこまで整理できるか
- 当初予算と補正予算を通じた国債発行額がいくらになるか
- 社会保障の自然増と物価反映をどう両立させるか
143.1兆円は、政府が各省庁の要望を集めた段階の数字です。政策としての評価は、ここから何兆円削ったかだけでは決まりません。
年末に確認すべきなのは、政府が「何を残し、何を止め、その財源をどう用意したか」です。そこが曖昧なままなら、投資枠は成長政策ではなく、将来の利払いを増やす支出になりかねません。
