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待機児童が減っても保育士は足りない 「定員」から「地域と人材」へ移る保育政策

保育室で少人数のこどもを見守る保育士たち。

待機児童が減っても保育士は足りない 「定員」から「地域と人材」へ移る保育政策

待機児童は全国で大幅に減りました。それでも保育士不足が続く最大の理由は、保育の総定員と、必要な地域・年齢・時間帯に配置できる人材が一致していないからです。

賃上げは欠かせません。しかし、給与を上げるだけでは、休憩を取りにくい勤務、書類作業、欠員を埋める負担、地域ごとの需給差までは解消できません。待機児童対策も、施設を一律に増やす段階から、保育士が定着する園をつくり、必要な場所へ人員を振り向ける段階に入っています。

この記事で分かること

  • 待機児童が減っても保育士の求人倍率が高い理由
  • 10.7%、5.3%の処遇改善をどう評価すべきか
  • 全国の定員には余裕があるのに、入園できない家庭が残る仕組み
  • 「こども誰でも通園制度」が人材不足に与える影響
目次

待機児童は2,254人、それでも求人倍率は2.54倍

全国集計では供給過剰に見えても、現場では人材不足が続いています。 この二つは矛盾ではありません。

こども家庭庁の最新の年間集計では、2025年4月1日時点の待機児童は2,254人。2017年の2万6,081人から8年連続で減り、10分の1以下になりました。

同じ時点で、保育所等の状況は次のようになっています。

  • 利用定員:303万人
  • 利用児童:268万人
  • 定員充足率:88.4%
  • 待機児童がいる市区町村:211市区町村
  • 待機児童が100人以上いる市区町村:1市

全国だけを見れば、定員は利用児童を約35万人上回ります。ところが2026年4月の保育士の有効求人倍率は2.54倍で、全職種平均の1.12倍を大きく上回りました。保育士を1人確保したい施設が多い一方、仕事を探す保育士は十分に増えていません。

全国平均では消える「場所のずれ」

保育需要は均等ではありません。子育て世帯が流入する都市部、住宅開発が進む駅周辺、低年齢児の申込みが集中する地域では、定員や保育士が不足します。一方、こどもの数が減る地域では空き定員が生じます。

2026年4月の有効求人倍率にも大きな地域差がありました。全国平均は2.54倍ですが、東京都は3.61倍、栃木県は7.72倍、広島県は5.36倍です。空きのある地域から不足地域へ保育所の定員を移すことはできず、保育士も住宅費や通勤、家庭事情を抱えているため簡単には移動できません。

つまり、必要なのは全国の「総数」ではなく、通える範囲にある園の、必要なクラスに入れる保育士です。

公式の待機児童数だけでは需要を測り切れない

2025年4月の申込者276万5,235人のうち、公式の待機児童2,254人とは別に、集計上の待機児童から除かれた人が6万4,489人いました。

除外される主な類型は次の通りです。

  • 育児休業中で復職意思を確認できる人
  • 特定の保育所等だけを希望する人
  • 自治体独自の保育サービスを利用している人
  • 求職活動を休止している人

除外された人すべてを「隠れ待機児童」とみなすのは正確ではありません。希望園を限定する家庭と、代替手段がまったくない家庭では事情が異なるからです。

ただし、公式の待機児童が少ないことだけで、希望に沿った保育が十分に確保されたとは判断できません。保護者にとって重要なのは、自宅と職場から通えるか、きょうだいが同じ園に入れるか、復職日に間に合うかです。

保育士不足が続く四つの理由

不足の原因は資格者の絶対数だけではなく、働き続けられる職場を十分につくれていないことにあります。

1.賃金だけでなく、責任と負担が重い

保育士は、こどもの安全を守りながら、食事、睡眠、排せつ、遊び、発達支援を担います。加えて、保護者対応、指導計画、記録、行事準備、研修、事故防止などの仕事があります。

欠員が出れば、残った職員が配置基準を守りながらクラスを回さなければなりません。休憩や有給休暇を取りにくくなり、負担がさらに増す。この循環が離職を招けば、採用できても人数が安定しません。

こども家庭庁が2026年度の調査研究課題として、現役保育士の職務満足度や離職理由、潜在保育士が復職をためらう要因、業務負担の大きい作業を調べるとしているのも、賃金だけでは説明できない問題が残っているためです。

2.配置基準の改善には、追加の人材が要る

国は保育の質を高めるため、4・5歳児の配置を「保育士1人にこども30人」から「25人」へ、1歳児を「6人」から「5人」へ改善する方向を進めています。

一人の保育士が見るこどもの数を減らすことは、安全と丁寧な保育に直結します。ただし、施設の定員が同じなら必要な職員数は増えます。配置を手厚くする政策と人材確保を別々に進めれば、園は求人を出しても採用できず、既存職員の負担を増やしかねません。

3.需要が低年齢児と特定時間帯に集中する

0~2歳児は、年長児より手厚い配置が必要です。途中入園や延長保育の希望も、職員の勤務シフトに影響します。

園全体に空きがあっても、0歳児クラスを担当する職員がいなければ受け入れられません。朝夕の延長時間だけ人が足りない場合もあります。「定員に空きがある」と「希望する条件で利用できる」は別の話です。

4.人口減少下では、増設にも撤退にもリスクがある

保育所の経営は地域のこどもの数に左右されます。利用児童が減る地域で新規採用や設備投資を増やせば、数年後に定員割れが深刻になる可能性があります。

一方、園を減らしすぎると、住宅開発や転入によって需要が戻ったときに受け皿を再建できません。地方では通園距離が伸び、保護者の送迎負担や就労継続にも影響します。

ここがポイント: 保育士不足は、全国の資格者数を増やすだけでは解けません。地域、年齢、時間帯ごとの需要に合わせ、職員が辞めずに働ける勤務体制を整える必要があります。

10.7%と5.3%の処遇改善は何を変えたか

大幅な人件費改定は前進ですが、個々の保育士の給与が同じ率で上がる制度ではありません。

国は2024年度、民間給与の動向を踏まえて保育士等の人件費を10.7%引き上げました。子ども・子育て支援新制度の開始後では最大の改定です。さらに2025年度補正予算では、5.3%の処遇改善が措置されました。

この改善は公定価格、つまり認可保育所や認定こども園などへ支払われる運営費の人件費部分を引き上げる仕組みです。国が一人ひとりの給与口座へ直接振り込むわけではありません。

「人件費5.3%増」と「全員の月給5.3%増」は違う

各職員への配分は、雇用形態、勤続年数、職責、法人の給与規程などを踏まえて決まります。そのため、改定率と同じ割合で全員の基本給が上がるとは限りません。

令和7年度から整理された処遇改善等加算には、主に次の役割があります。

  • 区分1:経験年数に応じた昇給や職場環境の改善
  • 区分2:職員全体の賃金改善
  • 区分3:副主任保育士や職務分野別リーダーなど、技能・経験に応じた改善
  • 人事院勧告対応:公定価格に含まれる人件費の追加改定

区分2では、加算額の2分の1以上を基本給または毎月支払う手当で改善することが求められます。賞与や一時金だけで終わらせず、継続的な賃金へ反映させるための条件です。

ただし、制度が複雑で、職員側から「自分にいくら、どの項目で反映されたのか」が見えにくければ、定着効果は弱まります。施設には配分内容の周知が求められており、自治体の確認と情報公表も重要になります。

処遇改善を採用と定着につなげる条件

効果を見る際は、改定率だけでなく次を確認する必要があります。

  • 基本給や毎月の手当にどれだけ反映されたか
  • 非正規職員や補助者を含め、配分に納得感があるか
  • 離職率と欠員期間が下がったか
  • 有給休暇、休憩、研修時間を確保できたか
  • ICT導入で入力作業が重複していないか
  • 園長や主任に管理業務が集中していないか

賃上げで応募者が増えても、入職後の働き方が変わらなければ離職は止まりません。反対に、業務を減らしても給与が他職種に見劣りすれば採用競争で負けます。両方が必要です。

待機児童対策は「施設を増やす」だけでは解けない

これからの対策は、自治体単位より細かい需要予測と、既存施設の機能調整が中心になります。

待機児童が2万人を超えていた時期には、保育所の新設と定員拡大が合理的でした。しかし現在は、全国の定員充足率が88.4%まで下がっています。一律の増設は、空き定員と運営費負担を増やす恐れがあります。

自治体が見るべき単位は、市区町村全体の定員だけではありません。

  • 駅、学区、住宅開発地区ごとの申込動向
  • 0歳、1歳、2歳など年齢別の需要
  • 4月入園と年度途中入園の差
  • 延長保育、医療的ケア、障害児保育のニーズ
  • 保育士の採用数、退職数、休職数
  • 園ごとの空き定員と通園可能な交通条件

空き定員を別の子育て支援に生かす

こどもの数が減る地域では、保育所を単純に閉じるのではなく、一時預かり、地域の親子支援、相談、障害児支援などへ機能を広げる選択肢があります。

ただし、役割を増やせば職員の専門性と準備時間も必要です。空いている部屋があるだけで、新しいサービスを始められるわけではありません。公定価格、研修、職員配置をセットで設計する必要があります。

「こども誰でも通園制度」が突きつける新しい需給問題

2026年度に全国実施された新制度は支援の対象を広げる一方、保育人材の需要も広げます。

こども誰でも通園制度は、保育所等に通っていない生後6カ月から満3歳未満のこどもが、保護者の就労要件を問わず利用できる仕組みです。2026年度は原則として月10時間が上限で、2026、2027年度には自治体が3時間以上10時間未満に設定できる経過措置もあります。

在宅で子育てをする家庭の孤立を防ぎ、こどもが家庭外の人や環境に触れる機会をつくる点には意義があります。一方、通常保育とは異なり、毎回異なるこどもを短時間受け入れる場面が増えます。職員は健康状態、アレルギー、発達、生活リズムを短時間で把握しなければなりません。

人員配置は一時預かり事業に準じ、従事者の2分の1以上を保育士とする仕組みです。資格を持たない人も所定の研修を修了すれば従事できますが、補助人材の活用は保育士の責任をなくすものではありません。

制度を安定させるには、次の線引きが欠かせません。

  • 通常保育の職員を切り出した結果、在園児の保育が薄くならないか
  • 初回利用や配慮が必要なこどもに十分な面談時間を確保できるか
  • キャンセルや短時間利用を含めても事業を継続できる公定価格か
  • 研修修了者と保育士の役割分担が明確か
  • 利用枠が都市部だけ不足し、地域格差が広がらないか

利用時間をすぐ増やすより、まず事故、利用率、職員の残業、通常保育への影響を検証する方が現実的です。

財源を増やすなら「何人増え、何人残ったか」を測る

処遇改善の評価は予算額ではなく、地域ごとの採用・定着・利用改善で行うべきです。

保育の公費負担は、こどもの安全、保護者の就労、企業の人材確保、出生後の生活基盤を支えます。保育士不足で入園できなければ、保護者が復職を延期したり、働く時間を短くしたりする可能性があります。その意味で人材確保は、個別の福祉政策にとどまらず、労働力と地域経済を支える政策です。

一方、児童数が減るなかで全国一律に定員と人員を増やし続けることはできません。財源を投入するなら、少なくとも次の成果を公開する必要があります。

  • 処遇改善後の平均賃金と配分方法
  • 常勤・非常勤別の離職率
  • 求人を出してから採用までの日数
  • 年齢別、地区別の空き定員
  • 申込みを断った理由
  • 保育士1人当たりの時間外労働と休暇取得
  • 配置基準を上回る職員を確保できた園の割合

ここまで見えるようになれば、「予算を増やしたのに人が足りない」という議論から、どの地域、どの勤務条件に追加策が必要かという議論へ進めます。

賃上げ以外の政策はどこまで有効か

補助人材、ICT、潜在保育士の復職支援は有効ですが、保育士の代替ではなく仕事を再配分する手段です。

保育補助者と子育て支援員

清掃、消毒、寝具の準備、教材管理などを補助者へ分担すれば、保育士はこどもの観察や保護者対応に集中しやすくなります。誰でも通園制度でも、研修修了者を含むチーム編成が認められています。

ただし、責任の境界が曖昧なまま人数だけを補えば、指示や確認が保育士に集中します。業務一覧と権限を明文化する必要があります。

ICTと書類削減

登降園管理、保護者連絡、指導計画、請求事務を連携できれば、同じ情報を何度も転記する作業を減らせます。しかし、紙とデジタルの二重運用や複数システムへの再入力が残れば、かえって負担が増えます。

導入件数ではなく、実際に削減できた作業時間を測るべきです。

潜在保育士の復職支援

資格を持ちながら保育現場で働いていない人は重要な人材です。研修や就職紹介に加え、短時間勤務、固定時間勤務、復職後の相談役などを整えれば戻りやすくなります。

ただし、現在の職場より賃金や勤務条件が悪ければ、資格があるという理由だけで復職は選ばれません。復職支援は、職場側の改善と組み合わせて初めて機能します。

今後の注目点

次に見るべきなのは、待機児童の全国総数より、処遇改善後の定着率と地域別の需給です。

2026年度以降の政策評価では、次の分岐点が重要になります。

  • 5.3%の人件費改定が基本給や毎月の手当に反映されるか
  • 2026年4月に2.54倍だった保育士求人倍率が地域別に下がるか
  • 1歳児と4・5歳児の配置改善を、欠員や残業の増加なく実施できるか
  • こども誰でも通園制度が通常保育の人員を圧迫していないか
  • 公式の待機児童だけでなく、希望園に入れない家庭の状況を把握できるか
  • 定員割れ地域で、園の統廃合と子育て支援機能の維持を両立できるか

まとめ

事実として、待機児童は2017年の2万6,081人から2025年には2,254人まで減りました。一方、2026年4月の保育士有効求人倍率は全職種平均の2倍を超えています。

ここから言えるのは、保育政策の課題が「全国の定員不足」から、地域と年齢に合った人員配置、職員の定着、保育の質の維持へ移ったということです。

処遇改善は続ける必要があります。ただし、次の予算編成で問われるべきなのは改定率の大きさだけではありません。賃金がどう届き、何人が職場に残り、どの地域で入園の選択肢が増えたのか。そこまで確認して初めて、待機児童対策と保育士確保を一つの政策として評価できます。

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