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防衛費は「増税か国債か」では決まらない 安定財源と支出検証をセットで考える

防衛装備と予算資料を組み合わせ、防衛財源の選択を表現したイメージ。

防衛費は「増税か国債か」では決まらない 安定財源と支出検証をセットで考える

防衛力を長期に維持する費用は、一定部分を恒久的な税収で支えるべきです。隊員の処遇、装備品の維持、弾薬の更新、施設の強靱化は毎年発生し、将来世代への借金だけでは安定しないからです。

ただし、増税を認めれば防衛予算の中身まで自動的に正当化されるわけではありません。必要なのは「税か国債か」の二択ではなく、歳出改革や税外収入も組み合わせ、調達価格、契約残高、達成した能力を国民が検証できる仕組みです。

この記事で押さえたい点は次の4つです。

  • 2023~2027年度の防衛力整備は、5年間で43兆円程度の水準が設定された
  • 令和8年度(2026年度)の防衛関係予算は9兆353億円で、前年度比3.8%増となった
  • 財源は税だけではなく、歳出改革、決算剰余金、税外収入、防衛力強化資金を組み合わせている
  • 2026年度から法人税、2027年から所得税とたばこ税の措置が段階的に家計や企業へ及ぶ
目次

何が決まり、いつ負担が始まるのか

結論からいえば、防衛財源の税制措置は一度に始まるのではなく、法人税、所得税、たばこ税で時期と負担構造が異なります。

法人税は2026年度から

防衛特別法人税は、2026年4月1日以後に始まる事業年度から適用されます。法人税額に4%を課す付加税ですが、課税標準となる法人税額から年500万円が控除されるため、赤字法人や法人税額の小さい企業には直接の負担が生じません。

この控除には、中小企業への影響を抑えつつ、利益を上げている企業に負担を求める意味があります。一方、負担した企業が投資、賃上げ、配当、販売価格のどこで調整するかによって、最終的な影響は従業員や消費者にも及び得ます。

所得税は2027年から

2027年分以後、基準所得税額に1%をかける「防衛特別所得税」が導入されます。同時に復興特別所得税の税率は2.1%から1.1%へ下がるため、制度開始時点の合計税率は変わりません。

それでも「負担増ではない」とだけ説明するのは不十分です。復興特別所得税の課税期間は2037年までから2047年までへ10年間延長されます。当面の税率を据え置く代わりに、負担期間を後ろへ延ばす設計だからです。

復興事業に必要な財源を確保することは当然ですが、防衛と復興という異なる目的を同じ所得税の付加税で調整する以上、将来の税収見通しと使途は分けて示す必要があります。

たばこ税は段階的に上がる

加熱式たばこの課税方式は2026年4月と10月の2段階で見直されます。その後、国のたばこ税率は2027年、2028年、2029年の各4月に、1本当たり0.5円ずつ引き上げられます。

喫煙者には直接的な負担となります。もっとも、禁煙の進行で課税対象が減れば税収も縮むため、恒久的に増える防衛費を支える財源としては不確実性があります。健康政策として消費を抑えたい税と、安定収入を求める防衛財源には、目的上の緊張が残ります。

ここがポイント: 防衛財源は「全国民への一律増税」ではありません。法人、所得税の納税者、たばこの購入者で負担の時期と形が異なり、所得税では当初の税率より課税期間の延長が重要です。

なぜ恒久財源が必要なのか

防衛力は装備を買った時点で完成せず、運用を続ける限り費用が発生します。

防衛力整備計画は2023~2027年度の5年間について、必要な防衛力整備の水準を43兆円程度としました。令和8年度の防衛関係予算は9兆353億円で、そのうち整備計画対象経費は8兆8,093億円です。

予算の使途はミサイルや艦艇だけではありません。例えば、次の費用は翌年度以降も続きます。

  • 自衛官の給与、手当、宿舎、募集・教育
  • 航空機、艦艇、車両などの維持整備と部品確保
  • 弾薬や誘導弾の補充、更新、保管
  • 基地、司令部、通信網の耐震化・分散化
  • サイバー、宇宙、無人機に対応する人材とシステム
  • 国内の防衛産業が生産・修理能力を維持するための発注

借金で装備を調達し、その償還も将来の税収に委ねれば、将来世代は装備の更新費と過去の国債費を同時に負担します。緊急時の一時的な支出を国債で平準化する余地はあっても、毎年続く基礎的経費まで恒常的に依存するのは持続的ではありません。

税だけで43兆円をまかなうわけではない

政府の財源設計は混合方式であり、税制措置は必要財源の約4分の1という位置づけです。

防衛省の説明では、必要財源の約4分の3を次の手段で確保し、残る約4分の1を税制措置で補う考えです。

  • 他の経費を見直す歳出改革
  • 一般会計の決算剰余金
  • 国有財産の売却などによる税外収入
  • 税外収入などを積み立てる防衛力強化資金
  • 装備品のまとめ買いや契約精査によるコスト縮減

令和8年度予算では、2022年度当初予算から増えた3.6兆円について、歳出改革0.8兆円、税外収入0.8兆円、防衛力強化資金の取り崩し1.4兆円、税制措置0.7兆円で確保する整理が示されています。

この組み合わせは、増税額を抑える点では合理的です。ただし、決算剰余金や資産売却は毎年同じ額を確保できるとは限りません。基金を取り崩せば残高も減ります。一時財源を恒久財源のように扱わないことが、次期計画を考える際の重要な条件になります。

国民負担を考える三つの基準

防衛増税の是非は、負担額だけでなく、公平性、景気への影響、支出の有効性で判断する必要があります。

1.誰が負担するのか

法人税は、利益の大きい企業を中心に直接負担を求めます。所得税は所得税額に比例するため、原則として所得税負担の大きい人ほど防衛特別所得税額も増えます。たばこ税は、所得ではなく購入量に応じる負担です。

同じ税収1円でも、生活への重さは同じではありません。低所得の喫煙者にとって、たばこ税は可処分所得に占める割合が大きくなりやすい一方、所得税を納めていない世帯には防衛特別所得税の直接負担がありません。

公平性を検証するなら、税目ごとの増収額だけでなく、所得階層、企業規模、世代ごとの実効負担を政府が定期的に示すべきです。

2.経済活動を弱めないか

法人への追加負担は、防衛産業を含む国内企業の投資余力と無関係ではありません。賃上げや国内投資を促す政策を進めながら法人課税を増やすなら、500万円控除がどの企業まで負担を防ぐのか、設備投資や賃金への影響が出ていないかを検証する必要があります。

一方、国債なら経済への負担が消えるわけではありません。金利が上昇すれば利払い費が増え、教育、子育て、社会保障、防災など他の予算を圧迫します。現在の納税を避けても、将来の税負担や行政サービスの抑制へ姿を変えるだけです。

3.支出で必要な能力を得られたか

最も重要なのは、予算額ではなく防衛能力です。令和8年度予算では3,734億円のコスト縮減が掲げられていますが、縮減額だけでは成果を判断できません。

国民が確認できる形で、少なくとも次を追う必要があります。

  • 調達数量と納入時期は計画どおりか
  • 円安や物価上昇で単価がどれだけ変わったか
  • 契約したものの、2027年度以降に支払う金額はいくらか
  • 装備品の可動率や弾薬備蓄は改善したか
  • 自衛官の採用、定着、処遇改善に成果が出たか
  • 国内企業の生産・修理能力が維持されたか

機密情報を公開できない領域はあります。しかし、秘密を理由に価格、納期、契約管理まで見えなくすれば、納税者は増税の効果を判断できません。作戦上の秘密と会計上の説明責任は区別すべきです。

増税反対論と賛成論はどこですれ違うのか

双方の主張にはそれぞれ現実的な根拠があり、争点は防衛の必要性そのものより、負担の順序と政府への信頼にあります。

「まず無駄を削るべきだ」という反対論

歳出改革と調達の効率化を先に求めるのは妥当です。計画額が大きいほど、単価上昇、仕様変更、納期遅延の影響も大きくなります。社会保障や子育て支援にも財源が必要な中、防衛だけを例外扱いすることへの警戒も理解できます。

ただし、無駄の削減だけで恒久費用をすべて賄えると断定するには、具体的な削減対象と金額が必要です。他分野の予算削減は、医療、介護、教育、地方交付税など別の受益者の負担へつながります。

「安全保障は国債でよい」という反対論

将来の国民も防衛の利益を受けるため、長期間使う施設などを国債で賄う考え方には合理性があります。重大な危機へ短期間で対応する際、税収がたまるまで待つこともできません。

しかし、隊員の人件費や日常的な維持費まで国債に依存するのは別問題です。国債は財源を生み出すというより、負担時期を移します。恒常経費と一時的な投資を分け、国債を使う範囲を明示する必要があります。

「安定財源が抑止力になる」という賛成論

複数年度にわたり安定して発注できれば、自衛隊は訓練や整備を計画でき、企業も設備と人材に投資しやすくなります。相手国に対しても、日本が防衛力整備を継続する意思を示せます。

この効果を本物にするには、税収の確保と同時に、調達の遅れや人員不足を改善しなければなりません。予算だけ増えて装備が納入されず、運用する隊員も不足するなら、抑止力には結びつきません。

生活や社会保障にはどう響くのか

家計への影響は税額だけでなく、他の行政サービスとの予算配分を通じて現れます。

所得税では2027年の導入時に付加税率の合計が変わらないため、給与明細上の急な負担増は抑えられます。一方、復興特別所得税の延長は、将来世代が所得税の付加税を負担する期間を長くします。

企業負担が価格へ転嫁されれば消費者に、投資や賃上げの抑制に向かえば働く人に影響します。ただし、どの経路がどの程度生じるかは、企業の収益、競争環境、価格交渉力によって異なり、一律には決められません。

さらに、防衛費が増える局面では、次の配分にも目を向ける必要があります。

  • 医療・介護の給付と保険料
  • 子育て支援と少子化対策
  • 災害対応や老朽インフラの更新
  • 海上保安、サイバー防御、経済安全保障
  • 地方自治体が担う避難施設や国民保護

安全保障は防衛省の装備だけでは成り立ちません。港湾、通信、電力、医療、避難計画が機能しなければ、国民を守る力は弱いままです。防衛費の増額と同時に、これらの基盤を削っていないかを見る必要があります。

次期計画で確認すべき分岐点

2027年度で現行の防衛力整備計画が区切りを迎えるため、焦点は43兆円を達成したかだけではなく、その後の年間経費をどう支えるかへ移ります。

今後は、次の分岐によって必要財源が変わります。

  • 物価高・円安が続く場合:同じ装備数量でも取得・維持費が膨らみ、計画の優先順位変更が必要になる
  • 人員不足が改善しない場合:装備より処遇、宿舎、採用、無人化へ配分を移す必要がある
  • 税外収入や基金が減る場合:追加の歳出改革、税負担、国債のいずれかを選ぶ圧力が強まる
  • 安全保障上の要求が拡大する場合:防衛省予算だけでなく、海上保安、サイバー、重要インフラ、国民保護との役割分担が問われる

政府と国会が次期計画を示す際には、総額だけでなく、「恒久経費」「一時的投資」「過去の契約に基づく後年度負担」を分けた財源表が必要です。これがなければ、増税の必要額も国債の妥当額も判断できません。

まとめ――税負担には条件がある

防衛力を平時から維持するには、恒久的な税収を含む安定財源が必要です。国債だけに頼れば、将来の更新費と過去の債務を重ねることになります。

一方、現在の税制措置には検証すべき点が残ります。

  • 所得税では当初の税率だけでなく、復興特別所得税を10年延長する影響を見る
  • 法人税では企業規模別の負担と、賃金・投資・価格への波及を確認する
  • たばこ税では喫煙減少による税収の不安定さを織り込む
  • 防衛力強化資金などの一時財源が尽きた後を明示する
  • 調達額ではなく、納期、可動率、人員、国内生産能力という成果で評価する

防衛増税を認める条件は、必要額の説明、負担の公平性、支出成果の公開を一体にすることです。 次に注目すべきは、2027年度以降の新たな防衛計画で、政府が「何を守るために、毎年いくら必要で、誰がいつまで負担するのか」を具体的に示せるかです。

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